再生可能エネルギーによる電力が発電量、消費量ともに5割を超えるドイツでは、今後火力発電からの撤退が進み、風力や太陽光など天候に大きく左右される再エネ電力の比率が高まるにつれ、系統電力の需給バランスを迅速かつ適確に調整することが電力供給安定化のための最重要課題である。その解決策であり再エネを無駄なく利用するソリューションとして、大型バッテリー蓄電システムの設置が加速している。リチウムイオン蓄電池の大幅な価格低下と性能向上が追い風となり、ドイツの大型蓄電システム(出力1MW以上)の設置済容量は2020年末の2.3GWhから2024年末の17.6GWhに急拡大した[1]。だが、2030年に電力消費量に占める再エネ比率が8割(政府目標)になれば、この設置スピードでは到底追いつかない。フラウンホーファー太陽エネルギーシステム研究所(Fraunhofer-Institut für Solare Energiesysteme =ISE)によると、国内の蓄電容量を2030年までに100GWh、2045年までに185GWh整備する必要がある[2]。昨年、送電網事業者にはバッテリー蓄電システムの連系に関する照会が殺到し、その合計設置規模は160GWを超えるとも言われる[3]。
ドイツエネルギー最大手RWE、2030年までに6GW設置目指す
RWEは2040年の脱炭素企業へのトランスフォーメーションに向けた成長戦略Growing Green[4]を2021年に立ち上げ、これまでに発電事業での排出量を5割削減した。再エネ事業拡大や水素プロジェクトとともに大型バッテリー蓄電施設の整備も同戦略の重要な柱である。蓄電施設はRWEのバーチャル発電所ネットワークに組み込まれ、再エネ発電の余剰電力を調整電力として効率的に利用することができる。国内では2023年初めにLingen(Nidersachsen州)に49MWh、Werne(Nordrhein-Westfalen州=NRW)に79MWhの大型施設を開設した。NRW州では昨年11月、2021年に廃止した石炭火力発電所があるHammで出力140 MW(蓄電容量151 MWh)、今年2月半ばにNeurathの褐炭火力発電所で80 MW(84 MWh)の蓄電施設が新たに稼働を開始した。両者合わせてバッテリーラック690台(1ラックあたりリチウムイオン電池モジュール8個内蔵)が設置され、系統連系のための高圧トランスフォーマーなどのインフラも整備した。投資額は約1億4,000万ユーロ(2023年3月のプロジェクト発表時点)である。RWEは米国、オーストラリア、欧州など世界中で約1.2 GWを設置済で、2030年までに6GWを目指している。
蓄電ビジネスへの関心、急上昇
大規模蓄電事業は電力供給安定化という目的を超えた、新しいエネルギーサービスモデルとしての関心も非常に高まっている。大規模蓄電施設は送電安定性の向上と再エネ電力の利用拡大に資すると同時に、電力市場での裁定取引(arbitrage)で収益を得ることができるのも魅力である。電力再エネ転換が先進的なドイツでは、スタートアップから国外のエネルギー大手まで多様な企業が蓄電ビジネスの潜在能力に期待し、大型プロジェクトを準備している。
Kyon Energy[5]:2021年設立のスタートアップ企業で、これまでに7つのプロジェクトを実施し合計出力120MWを設置した。今年Brilon(NRW州)で出力102MW(204MWh)、2026年にAlfeld (Niedersachsen州)で137.5MW(275MWh)、Dahlem(NRW州)で100 MW(200 MWh)の蓄電施設に着工する予定で、これらを合わせたプロジェクト計画の規模は2GWに上る。2024年に仏TotalEnergiesが同社を買収し、今後ドイツ事業に数10億ユーロを投資する方針である。
Eco Stor[6]:ノルウェーのバッテリー蓄電システム開発Eco Storのドイツ子会社で、2021年の設立。6つの蓄電施設で合計出力300MWを設置済である。現在開発中のプロジェクトの総出力は2GW超で、今年Bollingstedt (Schleswig-Holstein州=SH)で出力103.5 MW(容量238 MWh)の蓄電所が稼働開始するほか、2025年以降Schuby(SH州)で同103MW(238MWh)、Wengerohr (Rheinland-Pfalz州)で300MW(600MWh)、Förderstedt(Sachsen-Anhalt州)で300MW(600MWh)など大型プロジェクトがスタートする。
Aquila Clean Energy[7]:イタリアの再エネ事業大手としてWetzen (Niedersachsen州)で初の56MW (112 MWh)蓄電施設を建設中である。再エネ先進国のドイツを欧州の蓄電ビジネスの主導的市場と位置付けている。14都市に900 MW超の設置を計画する。
Volkswagen[8]:VWグループ傘下で再エネ電力・充電ステーションなどエネルギー事業を展開するElliが産業用蓄電ビジネスに進出する。蓄電電力は充電ステーションや電力市場取引に利用する。第1段階として出力350MW(700MWh)までのプロジェクトを計画し、今年中にも初プロジェクトに着手する。
Iquony[9]:エネルギーグループSteag Iquonyの再エネシステム開発会社で、蓄電システム(設置済出力90MW)を主に調整電力取引に利用している。Duisburg-Walsum石炭火力発電所(NRW州)の脱炭素化(水素生産ハブへの転換)の一環で50MW(200MWh)の蓄電施設を2026年に稼働させる計画である。2024年11月にDeutsche Bahnの子会社DB Energieと5年間、このバッテリー出力のうち35MWを利用する蓄電サービス合意(Power Storage Agreement)を交わしている。
※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy & Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。
[1] NDR 2025年3月3日報道 https://www.ndr.de/nachrichten/niedersachsen/hannover_weser-leinegebiet/Stagnation-in-Alfeld-Bau-von-Batteriespeicher-verzoegert-sich,batteriespeicher158.html
[2] Fraunhofer-Institut für Solare Energiesysteme 2022年5月10日付プレスリリース https://www.ise.fraunhofer.de/de/presse-und-medien/presseinformationen/2022/fraunhofer-ise-kurzstudie-batteriegrossspeicher-an-ehemaligen-kraftwerksstandorten-sinnvoll.html
[3] Kyon Energy 2024年12月17日付プレスリリース https://www.kyon-energy.de/blog/batteriespeichermarkt-im-wandel-ruckblick-auf-2024-und-die-trends-fur-2025
[4] RWE Purpose and Strategy https://www.rwe.com/en/the-group/purpose-and-strategy/
[5] Kyon Energy https://www.kyon-energy.de/en
[6] Eco Stor https://www.eco-stor.de/de
[7] Aquila Clean Energy 2024年11月19日付プレスリリース https://www.aquila-clean-energy.com/wp-content/uploads/2024-11-19_PR_Aquila-Clean-Energy_BESS_Wetzen_EN.pdf
[8] VW 2024年6月7日付プレスリリース https://www.volkswagen-group.com/de/pressemitteilungen/elli-steigt-in-das-geschaeft-mit-industriellen-energiespeichern-ein-18441
[9] Iquony 2024年11月14日付プレスリリース https://www.iqony.energy/presse/deutsche-bahn-sichert-sich-batteriespeicher-von-iqony
[2] Fraunhofer-Institut für Solare Energiesysteme 2022年5月10日付プレスリリース https://www.ise.fraunhofer.de/de/presse-und-medien/presseinformationen/2022/fraunhofer-ise-kurzstudie-batteriegrossspeicher-an-ehemaligen-kraftwerksstandorten-sinnvoll.html
[3] Kyon Energy 2024年12月17日付プレスリリース https://www.kyon-energy.de/blog/batteriespeichermarkt-im-wandel-ruckblick-auf-2024-und-die-trends-fur-2025
[4] RWE Purpose and Strategy https://www.rwe.com/en/the-group/purpose-and-strategy/
[5] Kyon Energy https://www.kyon-energy.de/en
[6] Eco Stor https://www.eco-stor.de/de
[7] Aquila Clean Energy 2024年11月19日付プレスリリース https://www.aquila-clean-energy.com/wp-content/uploads/2024-11-19_PR_Aquila-Clean-Energy_BESS_Wetzen_EN.pdf
[8] VW 2024年6月7日付プレスリリース https://www.volkswagen-group.com/de/pressemitteilungen/elli-steigt-in-das-geschaeft-mit-industriellen-energiespeichern-ein-18441
[9] Iquony 2024年11月14日付プレスリリース https://www.iqony.energy/presse/deutsche-bahn-sichert-sich-batteriespeicher-von-iqony