日本スポーツ振興センター(JSC)は2024年11月、国立競技場運営コンセッション事業の実施契約をNTTドコモを代表とする企業連合と締結。12月には公募審査評価点の内訳を公表した。運営権対価528億円を提案したNTTドコモ連合が、鹿島や東急をそれぞれ代表とする企業連合に大差をつけて圧勝したことがわかる。
運営権者は、NTTドコモ、前田建設工業、 SMFLみらいパートナーズ、日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)が出資するジャパンナショナルスタジアム・エンターテイメントだ。契約期間は約30年間。2025年4月から運営を開始する。
以下に、公募型プロポーザル方式で行われた審査結果の内訳を示した。配点500点のうち、NTTドコモのグループ(以下、NTTドコモG)は464点(小数点以下省略)を獲得。鹿島のグループ(鹿島G)は325点、東急のグループ(東急G)は285点だった。審査項目ごとの点数は全てNTTドコモGが最高点となっている。
地の利のある企業や元施工が負け
最も点差が開いたのは公的負担の評価項目だ。運営権者がJSCに支払う運営権対価として528億円を提案したNTTドコモGの115点に対し、鹿島Gは運営権対価36億円で46点。東急Gは運営権対価ではなく、JSCの費用負担額として99億円を提案して27点だった。
コンセッション事業の提案協議で、これほど提案額に差が付くのは珍しい。施設運営に対する参加企業の考え方の違いが如実に表れた。NTTドコモGは、国立競技場の運営に528億円を払う価値があると評価した。
審査に当たった有識者委員会はNTTドコモGの提案について、「新しいスタジアムビジネスモデルであり、国内スポーツ界を牽引する姿勢、ビジネスモデル実現のための追加投資が多岐にわたり組み込まれ、スタジアムとしての新しい価値向上の意欲が評価できる」とコメントしている。
鹿島は構成員の東京建物、東京ドームと共に、同じエリアにある新秩父宮ラグビー場整備・運営コンセッション事業の運営権を2022年に獲得している。つまり地の利がある。国立競技場のプロポーザルでは、秩父宮ラグビー場や近隣施設と連携したエリアマネジメントをアピールしたが及ばなかった。一方の東急Gには、国立競技場を施工した大成建設が参画している。施設や設備の管理のポイントを知り尽くしている立場だが、維持管理の審査項目の得点でもNTTドコモGに劣後した。
「稼ぐ力」の見通しが勝負を分ける
事業の成否はある程度の運営期間を経ないと評価できないが、国立競技場運営の事業者選定は「稼ぐ力」の見通しで勝負がついたといえる。NTTドコモGの構成企業には、コンセッション方式の参画数日本一の前田建設工業がいる。同社の親会社でインフロニア・ホールディングスの岐部一誠社長は2024年7月、自身のブログで次のようにつづった。
「国が10億円を上限に運営費を負担しようとしたように、国立競技場は現状では赤字経営です。今の赤字が将来にわたって続くと思えば、年間17億6000万円の対価を払うという評価にはなり得ません。(中略)世界水準のアリーナ経営が実践できれば、トップラインは間違いなく伸びます。その自信がなければ、528億円という運営対価は出せません」。
国立競技場に関しては、維持管理に莫大な費用がかかることから、国会で「負の遺産になる」と問題になった経緯がある。にもかかわらず大きな運営権対価が付いたことで、スポーツ施設のコンセッション事業に対する国や自治体の見方が変わりつつある。スタジアムやアリーナの運営が財政負担軽減の選択肢として認識されるようになってきた。
6月に開催された民間資金等活用事業推進会議で当時の岸田文雄首相は、維持管理コストの負担が課題とされた国立競技場の運営権対価528億円に言及し、「インフラの維持整備、住民サービスの向上と地域の社会課題を官民連携で解決するとともに、民間事業者の利益創出機会の拡大を図っていく観点からPPP/PFIが極めて有効」と述べた。
東静岡アリーナの建設・運営にBT+コンセッション方式※を計画している静岡市では6月、難波喬司市長がその可能性について、「民間事業者による多様な収入源の確保や自由度の高い運営が可能となり、採算性の向上、維持管理・運営費の縮減といった効果があります。さらに、収益性が高い施設の場合、その運営権を民間事業者が市から金銭で対価として購入することで、施設の整備、運営に対する行政の財政負担の削減が期待されます」と議会で答弁した。赤字に陥った札幌ドームでも、コンセッション方式導入が候補の一つとなっている。
※BT(Build-Transfer)+コンセッション方式:民間事業者が建設後に公共に所有権を移転し、公共が施設の所有権を有したまま運営権を民間に設定する事業方式。