ドイツの電気料金の仕組みと動向

LRI Energy & Carbon Newsletterから

ドイツの一般世帯の2022年の総エネルギー消費量(交通燃料除く)は約678TWh(1990年比+3.5%)で、エネルギー源別に見ると、ガスが249TWh(同+47.3%)、灯油が124TWh(同-39.8%)、電気が139TWh(同+18.8%)で、電気は全体の2割を占めた。総消費量の3分の2以上が暖房に使われ、1999年以降はガスがその主燃料である[1]。家計から見ると、2020年の世帯の1カ月当たりの光熱費(電気代+暖房・給湯用燃料費または地域暖房料金)は平均152ユーロ(160円/ユーロ換算で24,320円)で、一般支出全体の6.1% (手取り月収が5,000ユーロ以上の世帯は4.7%、1300ユーロ以下は9.1%)を占め、前年の5.8%から増加した[2]。1998年に電力市場を自由化したドイツでは現在、1,000超の小売り電気事業者が合計15,000以上のタリフ[3]を提供し[4]、消費者の獲得競争が活発である。連邦消費者センター連盟VZBV によると、2016年には460万世帯が業者を変更したが、近年の燃料価格高騰でこの動きは一段と強まっている。

ドイツの電力料金の仕組み

以下がドイツの小売り電気料金の構成要素である。

1)電力事業者コスト
A.電力発電/調達コスト、販売コスト、利益マージン
B.ネットワークコスト(送電網使用料)
C.消費量計測コスト( 計測・制御装置使用料、検針、債権回収コスト)

2)政策的徴収部分[5]
D.賦課金:コージェネレーション(KWK)法に基づく賦課金(2022年0.378 ct/kWh)、地域送電事業者への調整規定(StromNEV 19条)に基づく賦課金 (2023年0.417 ct/kWh)、洋上風力発電ネットワーク賦課金(2023年0.591 ct/kWh)、電力供給安定のための賦課金[6](2023年0.417 ct/kWh、同年末に廃止)。送電事業者が地方自治体に支払う土地利用料への賦課金(2022年4月1日時点で平均1.64 ct/kWh)。
E.税金:付加価値税(請求総額に対し19%)、電力税[7](2.05 ct/kWh)

連邦エネルギー・水道事業者連盟(BDEW)によると、2024年半ばの平均電気料金(年間使用量3,500 kWhベース)は41.35 ct/kWhで、1年前を4.38ct下回った。料金の内訳は電力事業者コスト(上記A)が17.93 ct/kWh(前年比6.44ct減)で全体の43%、送配電事業者コスト(B、C)が11.53 ct/kWh(2.01ct増)で同28%、賦課金・税(D、E)が11.89ct/kWh (0.49ct減)で同29 %を占める[8]。

ドイツの電気料金の動向

ドイツの税込み電気料金は2000年上半期の15.26 ct/kWhから、2008年同21.48 ct/kWh、2018年同29 .87 ct/kWh、2022年同32.79 ct/kWhへと20年超で名目2倍超に値上がった[9]。ドイツの電気料金はEU加盟国の中では長年デンマークに次ぎ高いが、その主要因は2000年に導入された再生可能エネルギー促進のための賦課金(EEG-Umlage)[10]に象徴される政策的徴収金で、それは電力総消費量に占める同エネルギーの比率が2023年に51.8%(10年間で2倍)まで拡大するのに寄与したが、国民には大きな負担を強いた。さらには、電力価格がガス価格に連動しているため、ウクライナ戦争の影響で電力事業者コストが2倍以上に増加し、2023年初めの予定であったEEG-Umlageの廃止が半年前倒しされたものの、電気料金上昇のブレーキにはならなかった。2023年下半期の一般世帯の税込み平均電気料金はドイツが40.20ct/kWhでEUで最も高かった[11]。ちなみにドイツの平均所帯の2021年の電気使用量は3,383 kWhで[12]、同年下半期の料金を32.34 ct/kWh(160円/ユーロ換算で約52円)とすると、年間約1,094ユーロ(約175,000円)の電気料金を支払ったことになる。

政府は2022年秋冬の電気・ガス料金の高騰に対し、消費者にエネルギー料金助成金を支給[13]したほか、2023年は1年間限定で料金の上限[14]を設定するなどして、国民の負担軽減を図った。今年前半に電力卸市場価格の低下で電気料金が下がったのは消費者には朗報であるが、ネットワーク利用料安定化のための公的助成金(55億ユーロ)が財政難を理由に打ち切られ、ネットワーク事業者が利用料を引き上げ(平均25%)たため、今後再び上昇する観測である。

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[1] 連邦環境局 https://www.umweltbundesamt.de/daten/private-haushalte-konsum/wohnen/energieverbrauch-privater-haushalte#endenergieverbrauch-der-privaten-haushalte
[2] 連邦統計局2022年1月11日付プレスリリース https://www.destatis.de/DE/Presse/Pressemitteilungen/Zahl-der-Woche/2022/PD22_02_p002.html
[3] 100%グリーン電力、基本料は高いが消費電力の単価が安い、基本料なしで消費電力の単価が高い、市場価格連動型、暖房専用電気、新規顧客向け特別料金など。
[4] Check24(サービス料金比較サイト)  https://www.check24.de/strom/stromanbieter.
[5] 連邦経済気候省(BMBK) https://www.bmwk.de/Redaktion/DE/Artikel/Energie/strompreise-bestandteile-staatlich.html.
[6] Umlage für abschaltbare Lasten nach § 18 AbLaV。電力需給調整のため一時的に電力供給を停止することに合意した大口需要家に対する補填のための賦課金。
[7] 電力税は1999年、新たな財源確保の目的で電気料金に対する消費税として導入された。
[8] BDEW 2024年7月4日付 BDEW-Strompreisanalyse Juli 2024 https://www.bdew.de/service/daten-und-grafiken/bdew-strompreisanalyse/
[9] Statistische Bibliothek  https://www.statistischebibliothek.de/mir/receive/DESerie_mods_00002386 
[10] 再生可能エネルギー促進法(EEG)に基づき同エネルギーへの助成を国民全員で支援するために導入された。初年は0.19ct/kWhだったが2014年以降、6.0 ct/kWhを超え(2018年は過去最高の6.88 ct/kWh)、2022年に3.72 ct/kWhに引き下げられた。手厚い助成措置のおかげで、総電力消費量に占める再生可能エネルギーの比率は2023年に10年前の2倍の51.8%に拡大した(連邦環境庁HP)。
[11] Eurostat  https://ec.europa.eu/eurostat/statistics-explained/index.php?title=Electricity_price_statistics#Electricity_prices_for_household_consumers
[12] 連邦統計局 https://www.destatis.de/DE/Themen/Gesellschaft-Umwelt/Umwelt/UGR/private-haushalte/Tabellen/stromverbrauch-haushalte.html?view=main
[13] 被雇用者、年金受給者、大学・専門校学生を対象に最高300ユーロが支給された。
[14] 一般世帯および年間使用量3万kWh以下の小口需要家の電気料金は、年間見込み使用量の80%まで40 ct/kWh(税込み)を上限とし、これを超えた分は政府が補助した。

宮本弘美(LRIコンサルタント フランクフルト)
関連サイト
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