需要家が水素を活用するには、国内で製造された水素、海外から輸入してきた水素を国内中に輸送する手段が不可欠である。現状の水素供給手段はトラック輸送が一般的だが、1台当たりの輸送量が限定的だ。一部の液化水素プラントからはタンクローリーによる輸送を行っていて効率性が高いものの、プラントの建設・運用コストは高価になる。
輸入水素サプライチェーンの玄関口となるCNP(カーボンニュートラルポート)などの港湾周辺では、事業用発電所などの大規模需要家向けに大口径・高圧のパイプラインが敷設されると見込まれるが、このパイプラインも大規模・高コストで、高圧ガスからの離隔距離確保の安全対策も大掛かりとなる。
水素パイプライン適用・普及のグランドデザイン
水素バリューチェーン推進協議会は2024年7月、NEDO水素・燃料電池成果報告会で「競争的な水素サプライチェーン構築に向けた技術開発事業」における「国内水素パイプライン構築に向けたグランドデザイン検討調査」の結果を報告している。検討調査の主な内容は下記の通り。
- 水素サプライチェーンの構築に向けた大量・安定輸送の方法として、水素パイプラインに関する国内外の事例や適用戦略、関連規制、水素パイプライン材の候補材(鋼管やポリエチレン管)に関する技術情報の整理、水素漏えい検知・保守保安手法。
- 水素パイプライン適用のモデルケース策定、リスク検討を踏まえて必要となる規制・技術基準の見直しの方向性、パイプライン以外の輸送方法と比較したコスト影響評価。
- 付臭措置(通常、地中に埋設するパイプラインにガスを流す場合、臭いを付けることをガス事業法で義務付けしている。付臭する物質は不純物であるため、燃料電池で利用する場合には脱臭が必要になる)を含む日本における合理的かつ適正な水素パイプラインの保安規制のあり方と、規制適正化のベースとなる国内への水素パイプライン適用・普及のグランドデザイン。
パイプライングランドデザインについては、2030年に沿岸部(輸入港・製造拠点から半径10km以内)で、コンビナートエリア、大口需要家、発電、鉄鋼、化学などの需要を想定。無付臭大口供給を念頭に高圧パイプラインによる産業(工場)や運輸(水素ステーション)への供給を構想している。
2040年には、幹線パイプライン(輸入港・製造拠点の50km以内)の地域で、沿線需要や大口需要家の需要を想定。無付臭での敷設に挑戦(不特定多数ではない)するとともに、ハブ&スポーク(幹線パイプラインの届け先から10km以内)の地域では、内陸部工業地帯や大口需要家を想定し、ここでも無付臭での供給に挑戦(不特定多数ではない、共同溝二重管などを念頭、個別需要には熱などで供給)するとしている。
東京都が空港臨海部におけるパイプライン実現可能性調査
東京都は2024年9月、空港臨海部においてパイプラインの敷設を伴う大規模な水素の利用や供給の実現可能性調査を都と共同で実施する事業者について、下記の2者を選定した。
(1) 空港臨海部におけるインフラを活用したパイプライン等による水素供給体制構築に向けた検討
- 事業者:エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所(共同事業者:NTTアノードエナジー、東日本電信電話)
- 内容:川崎臨海部や都内、他都市で製造された水素を共同溝・洞道・管路等のインフラを活用したパイプラインで運び、脱炭素の喫緊性が高い業種へ供給するビジネスモデル構築に関する調査を実施。
〔NTTグループは水素事業への参入にあたって、通信ビル(約7000カ所)を起点に洞道(約650km)、管路(約60万km)の保有資産に注目し、通信ケーブル用途で空いている管路を水素パイプラインに有効活用可能としている〕
(2) 空港臨海部における2050年の水素活用に向けたパイプライン等による大規模な水素供給、水素利用体制の整備に関する実現可能性調査
- 事業者:日本空港ビルデング(ENEOS、川崎重工業)
- 内容:多摩川スカイブリッジから羽田空港エリアへパイプライン等による水素供給ルートを検討し、羽田空港エリア内における水素利活用設備・機器(コジェネ発電、空港関係車両等)のポテンシャル調査を実施、ロードマップを策定。