最新のグリーン水素のコスト

LRI Energy & Carbon Newsletterから

多少の変更を加えるだけで既存のエネルギーインフラを継続して使用できるからという理由で、万能薬扱いにされている水素であるが、その将来はまだ明るいとは言えない。課題は価格である。昨年12月の英国の第1回CfDグリーン水素入札のストライク価格は241ポンド/MWh(8.03ポンド/kgあるいは9.48ユーロ/kg)であった。因みに日本政府が掲げる低炭素水素の2030年目標価格は、その約5分の1の334円/kg(1.98ユーロ/kg)である。

今年の6月にオランダのリサーチ機関、TNOが発表したグリーン水素のコスト分析は極めて有益な情報を提供している[1]。この分析はオランダ政府の資金によるもので、実際にオランダで Shell, Uniper, BP, Air Products, Air Liquide, Engie, Eneco, Hygro, HyCC, Orsted, RWE, Vattenfall, VoltH2の11社が実施中の14のプロジェクトの詳細なデータに基づいている。それによるとベースケースの平準化コストが13.69ユーロ/kgと予想以上に高いものであった。最低のコストは9ユーロ/kgで、最高はベースケースには含まれなかったが、21ユーロ/kgを超えていた。

水電解装置、バランスオブプラント、コンプレッサー、間接費、コンティンジェンシーを含む設備投資コストは水電解装置容量1kW当たり3,050ユーロであった(匿名性を保つためアルカリとPEMに分けられていない)。因みにオランダ政府がインセンティブスキームSDE++に関連して自ら実施した2023年の調査では、水電解装置の設備投資コストは2,200ユーロ/kWであった。TNOはこのコストの大きな差について、前者は実際のプロジェクトのコストであるため、設備に直接関係しないものも含まれている可能性があると指摘している。 

TNOは水電解装置の設備コストはシステム(運用を含むプロジェクト)のコストの30%にしか過ぎないため、製造規模の拡大でそれが半額になったとしても、全体の平準化コストをわずか下げるだけであると述べている。

システムの設備投資コストは、ベースケース13.69ユーロ/kgの4.92ユーロにしか過ぎない。最大のコストは電気である。TNOはPPAの価格として洋上風力75ユーロ/MWhそして陸上風力80ユーロ/MWhを想定し、購入コストを5.19ユーロ/kg、そしてグリッド接続コストを2.07ユーロ/kgとして電気のコストを計算している。このコストは再エネ電気の比率が増えるにつれ大幅に下がることが期待される。

TNOは容量200MW、最大限可能なフルロード時間、グリッドタリフ免除、70%借入、3年ではなく1年で完工という仮定のプロジェクトで、最大限低いコストは9.16ユーロ/kgと試算している。(これは上記の英国のストライク価格と似通っている。)

上記のTNOの分析と比較して、TotalEnergiesが2023年9月に50万トンのグリーン水素の入札受付を開始したことに関連してPlattsがグリーン水素製造コストの見積もりを行っているが、それによると欧州におけるアルカリ電解による製造コストは、1か月先の電気価格に基づき、6.10ユーロ/kg(オランダ、設備投資を含む)、PEM電解では7.17ユーロ/kgであった(参考までにグレー水素(設備投資と炭素を含む)は3.02ユーロ/kg)[2]。一方、TotalEnergiesのCEO、 Patrick Pouyanneによると、同社が実際に受け取ったオファーの平均価格は、2024年4月の時点でおおよそ8ユーロ/kgであった。

グリーン水素の製造コストが高い理由として、EPCコントラクターが数少ないため、実施の際の競争のレベルが低いということも挙げられるであろう。しかしながら、日本政府が掲げる水素の価格にするためには再生可能エネルギー電気の価格が、今後5、6年のうちに現在の4分の1くらいにまで下がる必要があると推測する。これは明らかに現実的ではない。

日本では発電にグリーン水素をフィードストックとしたアンモニア(グリーンアンモニア)を使用することが検討されているようであるが、その場合、再エネ電気から水素への変換のプロセスと水素から電気への発電のプロセスで合計50%から80%のエネルギー価値が失われていくわけであり、そのロスも考えると、果たして、それでできた電気の料金を消費者が喜んで支払うのかどうか疑わしく思われる。英国では水素による発電は、ガス炊き+CCUSの後で、バックアップのための最後の手段と位置付けられている。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。

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[1] https://fuelcellsworks.com/news/tno-costs-of-producing-sustainable-hydrogen-via-electrolysis-mapped-out/
[2] https://www.spglobal.com/commodityinsights/en/market-insights/latest-news/electric-power/091423-totalenergies-issues-tenders-for-500000-mtyear-of-green-hydrogen-in-europe

津村照彦(LRI会長)
関連サイト
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