アンモニア輸入に向けて国内勢が海外企業と共同開発

アンモニアを巡る動きが世界で活発になっている。アンモニアは、水素のエネルギーキャリア(輸送・貯蔵手段)として有望な候補であり、燃焼時にCO2を排出しないことから、脱炭素社会への移行を背景に、発電燃料や船舶燃料としての利用が期待されている。化石由来の従来のアンモニアと異なり、再生可能エネルギーによって製造時にCO2を排出しない「グリーンアンモニア」と、CCS(CO2回収・貯留)プロセスなどとの併用によってCO2をオフセットする「ブルーアンモニア」を総称して、「クリーンアンモニア」と呼ぶ。脱炭素社会の実現に向けた有力なエネルギーの一つとして、アンモニア製造・供給事業の早期実現が期待されている。

図表1 アンモニアのサプライチェーン

(出所)燃料アンモニア導入官民協議会

CCSやCO2-EORの技術を利用したブルーアンモニア

JERA(東京電力フュエル&パワーと中部電力の共同出資会社)は2021年5月、アンモニア生産の世界大手、Yara International(ノルウェー)と、アンモニアの生産・配送・サプライチェーン開発に協力してゼロエミッションを実現するための覚書に署名した。豪州・ピルバラにあるYaraのアンモニアプラントで、CCSプロセスによってブルーアンモニアを生産し、JERAの火力発電所向けに供給する。そのほか、発電目的を含む日本における新たなアンモニア需要の供給と開発、新しいクリーン(ブルーとグリーン)アンモニアプロジェクトの開発、日本へのアンモニアロジスティクスの最適化も目標としている。

石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、東洋エンジニアリング、伊藤忠商事とイルクーツク石油会社(IOC)は2021年7月、東シベリアと日本間のブルーアンモニアバリューチェーン構築に向けてフェーズ1(2020年度に実施)に続き、フェーズ2として事業化に向けた詳細検討の実施を合意した。東洋エンジニアリングと伊藤忠商事はフェーズ1と同様、 JOGMECの委託調査の受託者として参画。IOCが東シベリアで産出する天然ガスをアンモニアに変換し、日本に輸送するバリューチェーンのマスタープランを構築する。フェーズ2では、東シベリアから日本への大規模なブルーアンモニアバリューチェーンの事業化に向けて、IOCの東シベリアの油⽥で産出される天然ガスから⽔素とアンモニアを製造するための概念設計も実施する。概念設計では、生産過程で排出するCO2を、同社が東シベリアに保有する油⽥増産のための CO2-EOR(CO2を地下に圧入することで、原油回収率を向上させ、生産量を増加させる技術)と組み合わせることを想定している。アンモニアの内陸輸送に関して、鉄道とパイプラインの敷設を検討する。

INPEX(国際石油開発帝石)、JERA、JOGMECは2021年7月、アブダビ国営石油会社(ADNOC)との間で、アラブ首長国連邦(UAE)アブダビ首長国におけるクリーンアンモニア生産事業の事業化可能性に関する共同調査契約を締結した。本調査では、アブダビにおいて、天然ガスを改質して製造した水素を基にアンモニアを合成し、同時に排出されるCO2をINPEXが参画するアブダビ陸上油田で、CO2を用いた原油回収促進(CO2-EOR)技術を利用することによって、CO2排出量を大幅に抑制したクリーンアンモニアを生産し、日本に輸送する事業の事業化可能性を調査する。

図表2 国内外企業によるアンモニアサプライチェーンの共同開発事例

(出所)関係各社のウェブサイトを基に作成

国内の全石炭火力をアンモニア専焼にした場合、約2億tのCO2排出量削減

政府の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長」(2020年12月)では、アンモニアの利用に関して、「石炭火力へのアンモニア混焼の普及、混焼率向上・専焼化」を目標に、「2030年に向けて、20%混焼の実証(3年間)を経て、電力会社を通じてNOx抑制バーナーとアンモニア燃料をセットで実用化」、「2050年に向けて、混焼率向上・専焼化技術の開発を進め、導入・拡大(年間1.7兆円規模のマーケット)を目指す」などとしている。

供給に関しては、「安定的なアンモニア供給」を目標に、「2030年に向けて、生産拡大に向けたプラント設置および海外での積出港の整備に対する出資の検討並びに国内港湾における技術基準の見直し等の検討」、「日本がコントロールできる調達サプライチェーンを構築(2050年で1億t規模)」、「2030年には、現在の天然ガス価格を下回る1Nm3-H2あたり10円台後半での供給を目指す」としている。

現在、日本の国内では年間約12億tのCO2を排出している。このうち、電力部門からの排出量は約4億tである。国内の大手電力会社が保有する全石炭火力発電をアンモニア専焼にリプレースした場合には、約2億tのCO2排出量を抑制できるため、現在の電力部門からの排出量の半分を削減できることになる。そのときのアンモニア燃料の需要量は約1億tである。また、近い将来に実現が期待される石炭火力発電での20%混焼(エネルギーベースでの20%)によれば、CO2排出量は20%抑制される。国内の大手電力会社が保有する全石炭火力発電で20%混焼を実施した場合には、約4000万tのCO2排出量を抑制できるため、国内の電力部門からの排出量(約4億t)の約1割を削減できることになる。

なお、アンモニアの利用によって日本におけるCO2排出が抑制されるが、ライフサイクルで見た場合、外国における炭化水素からのアンモニア製造ではCO2が排出される。ライフサイクル全体での脱炭素化を図るため、その排出されるCO2を適切に処理していくことも重要となる。

図表3 アンモニア燃料によるCO2排出量削減の試算

(出所)燃料アンモニア導入官民協議会の資料を基に作成

InfraBiz
関連サイト
Yaraのウェブサイト
東洋エンジニアリングのウェブサイト
INPEXのウェブサイト
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