5月13日に開催された「総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会」で、資源エネルギー庁が示したシナリオが、日本の未来の姿を浮かび上がらせた。政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル」を実現しようとすると、太陽光発電や風力発電の設備を導入するために、相当な土地や場所を確保しなければならない。
再エネ5~6割、発電電力量約7000億~8000億kWhのシナリオ
未来の姿を示したのは「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討」という資料だ。温室効果ガス排出を実質ゼロにするための道筋を示し、主要な電源について課題を列挙した。注目すべきは、再エネ導入量の規模感を記したページ。シナリオの一つは、2050年度の電源構成に占める再生可能エネルギーの割合を5~6割、発電電力量7000億~8000億kWhと例示した。
以下に「再エネ5~6割」の規模感を示した。上段のグラフは2019年度の実績で、再エネ割合は18%。中段は2018年のエネルギー基本計画が示した2030年度における電源構成目標で、再エネは22~24%となっている。そして下段が、再エネ5~6割のイメージだ。電力の総消費量が大きく変わらなければ、2050年度に再エネの割合が今の2倍以上になることがわかる。
荒廃農地への太陽光・風力の導入が進む
資源エネルギー庁は、再エネ5~6割、発電電力量約7000億~8000億kWhを実現するための電源を次のように仮定した。
1)太陽光約260GW(約3000億kWh)
2)風力約90GW(約1900億kWh)
3)水力・バイオマス・地熱約60GW(約1600億kWh)
4)1~3に加え、約500億~1500億kWh程度の追加導入が必要
続いて、電力中央研究所の分析や洋上風力産業ビジョンに基づき、導入の難しを描いた。
太陽光260GWの内訳は、住宅屋根62GW、建築物屋根45GW、農地(営農型)42GW、荒廃農地110GW。住宅は2040年以降100%の導入だ。工場・物流施設・商業施設などの大型施設の屋根も、可能なところは全て使う。農地では、荒廃農地が大きなターゲットになっている。
風力90GWの内訳は、陸上41GW、洋上45GW。陸上風力については、「風速5m/s以上の雑草地・再生困難な荒廃農地などに加えて、特に風力発電に適している山林(風速7.5m/s以上で傾斜角10度未満、保安林除く)を開発して導入」と書かれている。風力の目標値の実現には、直近3年間の平均FIT(固定価格買取制度)認定量1.3GWの約2倍の認定を30年間継続し、全て導入する必要があるという。
これでも足りないので、追加導入として洋上風力45GWまたは太陽光110GWで賄う案を示した。太陽光の場合、1MW分の面積を「25m×10mのプール40個分=1ha」として、それが11万カ所必要だとした。先の260GW分の用地に加えて、「全国約1700の市町村の全てが、平均して65カ所の用地を確保するイメージ」と表現している。
里山や海岸の風景が変わる
目標値の議論は続いており、5~6割で決着するかどうかはわからない。ただ、太陽光や風力は実績があるので現実的だ。ほかに有力な手段が出てこない限り、誤差はあれどもこの方向に進むだろう。このほど国際エネルギー機関(IEA)が発表した「Net Zero by 2050」は、2050年における全発電量に占める再エネ割合の目標を88%とした。やはり、太陽光と風力に期待している。
日本がシナリオに沿って動き出せば、風力や太陽光を設置するための土地や場所の争奪戦が起きる。開発をめぐる反対運動も増える可能性がある。そして、里山、海岸、街の風景も大きく変わる。いたる所に太陽光パネルが並べられ、山や海岸では風力発電のタワーが建ち並ぶ姿が当たり前になる。
2020年11月に内閣府が公表した「気候変動に関する世論調査」によると、回答者の92%が脱炭素社会に向けて「取り組みたい」と答えた。再エネ発電の拡大は脱炭素の有効な手段だが、身近な場所で起きる開発とどう向き合うのか、自治体や住人は改めて判断を迫られることになりそうだ。