都市エアモビリティのパイオニアであるドイツVolocopterは2021年3月、UAM(Urban Air Mobility)を可能にするエコシステムの必要事項を解説したホワイトペーパー “The Roadmap to Scalable Urban Air Mobility” を発行した。欧州連合航空安全機関(EASA)による設計組織承認(DOA=Design Organisation Approval)を受けた最初の電動エアタクシー開発者として、2〜3年のうちに商用サービスの開始を目指すとしている。
ホワイトペーパーは、航空機製作の技術的な詳細、電動垂直離着陸(eVTOL)航空機業界が直面する課題や航空機周辺(輸送サービスの提供、航空管制、離発着場の開発・運営、機体メンテナンスなどのエコシステム)の複雑さ、UAMの進捗状況、シンガポールやパリなどの都市にUAMサービスを実装するスケーラブルなビジネスアプローチなど、次世代モビリティを導入するためのパートナーシップに焦点を当てたソリューションを説明している。下記に要点を示す。
- UAM業界は、2035年までに11.3兆ユーロの実際に提供可能な市場(addressable market)を持ち、2410億ユーロの市場可能性(market potential)があると予想されている。過半は乗客モビリティ(VoloCityエアタクシーサービスを含む)、残りは物流タイプの物資輸送サービス(VoloDroneサービスを含む)が占める。
- 強力なパートナーシップとエコシステム戦略は、電動エアタクシー市場への参入と将来のUAMサービスの先例となるために極めて重要な役割を果たす。
- 最も成功するアプローチは、安全性、インフラ、航空機の設計、航空運用、都市の統合、サービスの受け入れなど、すべての重要な分野で顧客を第一に考える。
- Volocopterは、欧州連合航空安全機関のEASA SC-VTOLによって定義されたエアタクシーの高い安全基準、米国連邦航空局(FAA)やシンガポール民間航空庁(CAAS)による同型式の証明検証の進捗を支援する。
- デジタル化と自律飛行は、長期的にエアタクシーサービスの利用料金の低減に貢献する。Volocopterは、航空機が自律的に飛行できること、UAMエコシステムの様々な構成要素がデジタル化をベースとしたプラットフォームVoloIQを介して接続できることを保証していく。
日本航空、NTTもVolocopterのファンドに出資参画
Volocopterは、都市内で乗客を安全かつ静穏に輸送するための認定を受けた最初の完全電動垂直離着陸機eVTOLを開発している。2011年に初の乗務員飛行を実施し、それ以来、実物大の航空機で多数の公共飛行を披露してきた。2017年のドバイでの世界初の自律型eVTOL飛行、2019年10月にはシンガポールのマリーナベイでの公開テスト飛行を実施した。重量貨物用のVoloDroneを使用した物資輸送向けの製品も開発している。
同社は、Stephan Wolfと Alexander Zoselが2011年に設立。現在、ドイツのブルッフザール、ミュンヘン、シンガポールのオフィスに300人の従業員を擁する。Series C(2019年9月、20年2月に募集完了)とSeries D(2021年3月に募集完了)のファンドで、総計3億2200万ユーロ(420億円)を調達している。主な出資者は以下通り。日本企業も含まれている。
Zhejiang Geely Holding Group(浙江吉利控股集団:中国の自動車メーカー吉利汽車、スウェーデンのボルボ・カー・グループなどの親会社)、Daimler、DB Schenker、Intel Capital、btov Partners、Team Europe、Klocke Holding、BlackRock、Avala Capital、Atlantia、Continental、Jericho Capital、Team Europeのほか、日本からは三井住友海上火災保険グループ、日本航空(CVCのTransLink Capitalを通じて)、NTT、東京センチュリー。