ドイツ、エネルギーマネジメントシステム導入を企業に義務化

最終エネルギー消費量、2030年までに2008年比で26%削減目指す

排出ニュートラル社会の実現は、再生可能エネルギーを柱とするクリーンエネルギーへのシフトと同時に、最終エネルギー消費量を大幅に減らすことで初めて可能である。経済活動が増大・多様化しデジタル化が急加速する現代社会にあって、これは容易なことではない。ドイツ連邦環境庁(Umweltbundesamt)によると[1]、国内の最終エネルギー消費量は1990年から2018年まででわずかな減少にとどまったが、2019年以降はエネルギー効率化措置の効果に加え、予期せぬ新型コロナ禍やウクライナ戦争が経済や社会活動に影響を及ぼしたことで減少に弾みがついた。2023年の最終消費量は2,275TWhで2008年を12.5%下回り、過去15年で最低となった。同年のエネルギー生産性は2008年比で55.9%、前年比で4.1%それぞれ上昇しており、エネルギー効率が向上したことがわかる。とはいえ、政府が掲げる2030年目標の1,867TWhにはまだ相当の省エネ努力が必要である。

エネルギー効率化法

2023年11月に発効したエネルギー効率化法(Energieeffizienzgesetz=EnEfG)[2]は、エネルギー効率の向上、一次・二次エネルギー最終消費および化石燃料の輸入・消費の削減、エネルギー供給安全の向上を目的とする。国家エネルギー効率化戦略で先に一次エネルギー消費量を2050年に2008年比で50%削減するという目標が掲げられていたが、同法で初めて拘束力のあるエネルギー削減目標として、1次エネルギー消費量を2030年に2008年比で最低39.3%(2,252TWh)に、最終エネルギー消費量を最低26.5%(1,867 TWh)に削減することが明確にされた。最終消費量は2045年までにさらに45%の削減を目指す。この目標実現のため、企業および公共機関には以下のような義務が課されている。

企業:最終エネルギー消費量が年間7.5 GWhを超える事業者には今年7月18日まで[3]にエネルギー・環境マネジメントシステムの導入を義務付ける。消費量が2.5GWhを超え7.5 GWh以下の企業には、エネルギー効率化措置に関する報告書作成とその公示が求められる。

データセンター:2025年7月1日までにエネ・環境マネジメントシステムの導入を義務付ける[4]。稼働開始が2026年7月1日以前のセンターは年平均エネルギー消費効率[5]が2027年7月から1.5以下、2030年7月から1.3以下を維持するようエネルギー管理をしなければならない。2026年7月以降に稼働開始するセンターには同効率1.2の維持に加え、エネルギー再利用率10%が求められる[6]。ただし地域暖房網への熱供給合意がある場合などはエネ再利用率義務が免除される。また、2024年から電気消費量の再生可能エネルギー比率が最低50%、2027年からは100%であることが求められている。

公共機関:最終エネルギー消費量が年間1GWh以上の場合、2045年まで毎年2%の消費削減が義務付けられる。同消費量が3GWh以上の場合、エネ・環境マネジメントシステムを、1~3GWh未満の場合は同簡略システムをそれぞれ2026年6月末までに導入しなければならない。

エネルギー・環境マネジメントシステム

環境管理システムの要件としては国際標準化機構ISOのISO40001、エネルギー効率を高め省エネポテンシャル把握のためのエネルギー管理システムではISO 50001が世界的な標準となっているが、EUが1995年に導入したEMAS (Eco-Management and Audit Scheme)は両者を反映しており、EMASに準拠したエネ・環境マネジメントシステムの導入が理想的とされる。環境庁によるとEU圏内のEMAS認定登録数は2023年11月時点で4,053企業・団体の12,745事業所である。ドイツでは同年12月時点で1,115企業・団体の国内の2,455事業所がEMASの認定を受けている。州別に見るとBaden-Württemberg州が全体の28%、Bayern州が27%、Nordrhein-Westfalen州が10%と、ドイツの輸出産業が集約する州が上位を占めている。国家サステナビリティ戦略では2030年までにEMAS認定事業所数5,000を目標とする。一方、ISOが行ったアンケート調査によると、ISO40001認定事業所数は2022年に世界全体で約530,000に上り、中国が56%[7]を占め、ドイツは約13,400であった。ドイツでは2017年の約12, 200から2018年に約8,000に減った後で再び大幅に増えたのは、EMAS認定事業者の多くがISO40001も同時に認定されたことによると見られる。ISO50001認定事業所数は世界中で約27,600、このうちドイツは約5,500である[8]。

ドイツ政府は2020年からエネルギー効率化措置に対する助成プログラムの一環で企業のエネルギーマネジメントソフトウエア導入を奨励している。鉱工業の多くの企業はエネルギーマネジメントシステムの導入や同監査の実施を自主義務と捉えているようである。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。


[1] UBA 2024年11月11日付プレスリリース https://www.umweltbundesamt.de/themen/klima-energie/energiesparen/energieverbrauch-energieeffizienz-in-deutschland-in#Klimaschutz
[2] Energieeffizienzgesetz(EnEfG)https://www.gesetze-im-internet.de/enefg/BJNR1350B0023.html
[3] EnEfG施行後に最終エネルギー消費量が年間7.5 GWhを超え同規定の対象となった企業は、その時点から20カ月以内。
[4] 排熱を50%以上地域暖房網に供給し、過去3年間の電力消費量平均が7.5GWh以下のデータセンターは義務を免除される。
[5] EnEfGの定義:データセンター全体の年間エネルギー需要とITシステムのエネルギー需要の比率でデータセンターのエネルギー効率の指標としている。
[6] 運転開始が2027年7月以降のセンターはエネルギー再利用率が15%、2028年7月以降のセンターは20%と要求が高くなる。
[7]外資企業が現地工場のISO認定に積極的なことが中国の比率が非常に高い背景にあると思われる。
[8] UBA 2024年2月29日付プレスリリース https://www.umweltbundesamt.de/daten/umwelt-wirtschaft/umwelt-energiemanagementsysteme#umwelt-und-energiemanagement-in-deutschland-eine-positive-bilanz

宮本弘美(LRIコンサルタント フランクフルト)
関連サイト
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