ドイツ政府、新カーボンマネジメント戦略でCCUSを推進

LRI Energy & Carbon Newsletterから

ドイツ政府が5月末、CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)の推進を主眼とするカーボンマネジメント戦略を閣議決定した[1]。様々な産業工程で発生するCO2を大気中に放出する前に回収し、地中の帯水層などで長期的に貯留保管することで排出削減を実現するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)は、自然環境への影響や安全性の懸念に加え、化石燃料から撤退し排出ゼロの技術への転換を妨げるとの批判の声がこれまで非常に強い。ドイツでは2012年に二酸化炭素貯留法(Kohlendioxid-Speicherungsgesetz=KSpG)が施行されたが、CCSの実証試験等を規定するにとどまり、長期的な安全性が確認されていないことから政策的にも非常に慎重で、商業規模のプロジェクトは事実上不可能となっている。だが、世界的にCCS導入の動きが進む中、ベルリン近郊で行われた国内唯一のテスト施設で自然環境への負荷がないという分析結果が提示され、国内産業界からもCCSの必要性を訴える声が高まったことから、風向きが変わってきた。排出防止と化石燃料由来のエネルギーからの撤退を排出ニュートラル実現の2本柱に掲げてきたドイツ政府だが、全ての分野でCO2排出を避けることは不可能であり、「CCUSの利用を可能にしなければドイツではカーボンニュートラルは実現できない」(ハーベック経済相)という認識を初めて明言した。特に生産工程での排出を防ぐことが非常に困難なセメント、石灰、素材化学品、ゴミ焼却業では排出権取引(ETS)の価格上昇によるコスト負担が年々高まっており、CCUSは排出削減措置のオプションとして注目を集めている。新カーボンマネジメント戦略は同技術の安全な利用とCO2の輸送及び貯留のためのインフラ整備の基盤として、連邦議会での審議がこれから始まる。

カーボンマネジメント戦略の骨子[2]
政府は産業、学術研究、地方自治体・市民組織の代表を交えた議論に基づき、カーボンマネジメント戦略の骨子を次のようにまとめた。

  1. CO2の輸送および貯留に関わる既存の制約を排除し、利用のためのガイドラインを作る。
  2. CO2の貯留は、貯留場所としての適合性が証明されたことを前提に海洋保護地区以外の海底地下で行ってよい。陸地での地下貯留はこれまで通り不可能だが、州レベルでは特定地域での貯留を許可してよい(オプトアウト)。
  3. CCS/CCUは温暖化ガスの排出削減目標と合致しなければならない。政府としては引き続き再生可能エネルギーの設備能力拡大に重点を置く。
  4. ガス燃料とバイオマスによる発電事業は、気侯ニュートラルな電力システムへの移行をあらゆる技術を使って取り組むという意味でCCS/CCUを利用してよい。
  5. 石炭からの撤退計画を踏まえ、石炭でのエネルギー生産(熱・電力)に伴い排出されるCO2は輸送パイプラインと貯留施設を利用できない。
  6. 化石燃料を使用する発電所のCCS/CCUプロジェクトは助成しない。CCS/CCUの 助成は、排出回避が非常に難しい、あるいは不可能なケースを対象とする。

ドイツ企業のCCSへの取り組み
ドイツでは環境保護団体や市民イニシャチブを中心にCO2貯留反対の声が非常に大きく、電力大手のRWEやスウェーデンVattenfall独子会社による国内の民間プロジェクトは過去に中止を余儀なくされた経緯があり、国外でこれに取り組む動きが見られる。RWEは英国の3つの現地ガス火力発電所でCCSプロジェクトを検討している[3] 。Wintershall Deaはノルウェー海域で2つの貯留基地をすでに運営し、デンマークでのプロジェクトも昨年CO2の注入を開始した。また、同国のCCSプロジェクトパートナーである英INEOS Energyや、地元送ガス会社Evidaなどとの提携により、欧州企業から回収したCO2を同国とノルウェーの貯留場所に移送するための集荷基地をデンマーク北端に計画している。完成すれば年間処理能力1500万トンと欧州最大で、2027年にドイツからのCO2受け入れを目指している[4]。独北部のWilhelmshavenに年間処理能力が最大1000万トンの集荷輸送基地CO2nnectNowを整備する構想もある。また、昨年11月には英国のCCSプロジェクトPoseidonに出資し、同分野の事業拡大を進めている。

一方、国内セメント・建設資材最大手のHeidelberg Materials(旧社名Heidelberg Cement)ではスウェーデン子会社CementaがすでにCCSを採用済みだが、ドイツでは 国内北西部のGeseke工場を産業スケールでCCSを導入する国内初のセメント工場に転換する。酸素燃焼法(Oxy-fuel)でCO2を回収し、年間70万トンの回収能力を整備する。投資総額5億ユーロ超(EUが1億9,100万ユーロを助成)で、2026年に着工し、2029年のコミッショニングを目指す[5]。

CO2サプライチェーンとインフラ構築
一部の分野で放出を避けられないCO2を排出権取引のような小手先の方法ではなく、CCUSのような技術で隔離し利用する意義への認識は広まってきたものの、環境汚染と脱化石燃料を遅らせるリスクを恐れる声は引き続き強い。ドイツでは北海あるいはバルト海に面するMecklenburg-Vorpommern、Schleswig-Holstein、Niedersachsenの3州が海底下貯留を拒否する立場をとる。カーボンマネジメント戦略によりCCSプロジェクトが容易になっても、国内に貯留場所を設けることはかなり困難な観測であり、当面は国外の貯留場所を利用せざるを得ない。半面、CO2を合成燃料や化学品の原料として産業利用することへの関心は非常に高い。従って政府のカーボンマネジメント戦略ではCO2のサプライチェーンと輸送パイプラインなどのインフラ構築に重点が置かれることになりそうである。カーボンネガティブ(CO2排出量より吸収量の方が多い)社会も視野に入れ、国はCCUSプロジェクトへの膨大な投資を助成せざるを得ないと判断したようである。

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。

—————————————————————————–
[1] 連邦政府HP 2024年5月29日付プレスリリース https://www.bundesregierung.de/breg-de/suche/carbon-management-strategie-2289146
[2] 同上
[3] RWE HP https://uk.rwe.com/rwe-generation-uk/rwes-carbon-capture-projects/
[4] Wintershall Dea 2023年12月13日付プレスリリース https://wintershalldea.com/en/newsroom/pi-23-45
[5] Heidelberg Materials HP https://www.heidelbergmaterials.com/en/sustainability/we-decarbonize-the-construction-industry/ccus/gezero

宮本弘美(LRIコンサルタント フランクフルト)
関連サイト
LRI ニュースレター エネルギー&カーボン
タイトルとURLをコピーしました