北ドイツでNorthvoltのEVバッテリーギガファクトリー着工

2026年に100%グリーン電力で稼働開始、年間生産能力60GWh

今年春、北海に近いドイツ北部Heideで電気自動車(EV)用バッテリーのギガファクトリーが着工した。スウェーデンのバッテリー大手Northvoltによるギガファクトリー“Northvolt Drei”は年間生産能力60GWhを整備し、2026年の稼働開始を予定する。地元の潤沢な風力発電を100%利用し、カーボンフットプリントが世界で最も小さい持続可能なバッテリーの生産を実現するため45億ユーロを投資する[1]。路上交通の排出ニュートラルを担うEVの心臓部であるバッテリー市場を中国、韓国などアジア企業が席巻する中、「Northvoltの投資はドイツ・EUにとって戦略的に重要である」(ショルツ独首相)。ドイツ政府が9億ユーロの助成に踏切ったのは、欧州のEVサプライチェーン構築に関わる千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかないからである。

Northvoltのグリーンバッテリー戦略
Northvolt[2]は世界で最も持続可能でグリーンなバッテリーの生産を目指し、正極材(NMC=ニッケル・マンガン・コバルト)の生産からバッテリーセル製造、リサイクリングに至る製品バリューチェーンを自社内で構築している。コスト効率のよいバッテリーグレードの材料回収に取り組み、NMCではすでに95%回収を実現している。リサイクル材料でカソードを製造すればカーボンフットプリントを大幅に減らすことができるため、2030年までに同混合率50%を目指している。スウェーデンのEtt工場は欧州のリサイクリング施設としては最大規模の年間処理能力12万5000トンを備える。

Northvolt Dreiは同社としてスウェーデン(Skelleftea)、カナダ(Montreal地方に建設中)に続く3番目のギガファクトリープロジェクトで、110ヘクタールの敷地にバッテリー生産工場とリサイクル工場を設置する。地元の汚水事業者連盟(AZV)との提携で浄化水を年間200万?調達し、生産工程の冷却用水として工場内に設置した処理施設でさらに浄化する。地元ユーティリティ会社とは工場の廃熱を地域暖房システムに利用するため事前合意している。

欧州自動車メーカー、バッテリー事業に投資
欧州のバッテリー生産はポーランドのLG Chem、ハンガリーのSamsung SDIなど韓国勢がけん引しているが、独Erfurtに欧州初工場を構える中国CATLもハンガリーでギガファクトリーの建設を進めており、アジア企業の投資は引き続き活発である。だが、欧州の自動車業界も“地元”の調達体制の構築を急いでいる。Northvolt の出資者にはBMWとVolkswagen(VW)が名を連ねる。VWは当初、Northvoltとの提携によるバッテリー生産を検討していたが、最終的に単独路線を選び、2022年7月にバッテリー事業統括子会社PowerCoを設立した。エンジンと同主要部品およびEVモーターコンポーネントの生産拠点である独Salzgitter工場では、投資額20億ユーロでVWグループのEVバッテリーセンターへの転換プロジェクトが進められている。年間生産能力40GWh(EV約50万台分)を整備し、2025年から100%再生可能エネルギー電力で量産モデル用バッテリーセルの生産を開始する。また、スペインValenciaと米国St Thomasにもギガファクトリーを設立し、3工場で年間最高200GWh(EV200万台以上)を生産する計画である。[3]一方、Stellantis、Mercedez-BenzとTotalEnergies傘下のバッテリー開発会社Saftによる独仏合弁会社Automotive Cell Company (ACC)は、年内に仏Billy Berclau Douvrinで同社初のギガファクトリー(当初13GWh)を、2025年に独Kaiserslauternで第2工場(40GWh)を稼働させるほか、2026年には伊Termoliの工場開所も計画している。[4]

欧州バッテリープロジェクトに立ちふさがる米国
米国で2022年8月、インフレ抑制法(Inflation Reduction Act)が成立し、欧州のバッテリー工場計画に激震が走った。EV関連事業の投資に対し税控除や補助金など手厚い助成が可能になり、投資先として米国の魅力が一気に高まったのである。ベルリン近郊GrunheideにあるTesla欧州初のギガファクトリーは2022年、同社として “最も持続可能で効率的な”生産拠点として稼働開始した。バッテリー部門は電極などコンポーネントの生産を開始しているが、米国工場を優先・増強する方針に変更され、最終組み立て工程は行わないもようである。ノルウェーのバッテリー大手Freyrも米国を生産拠点として優先し、フィンランドのギガファクトリー計画は一旦中止してカソード生産に注力すると発表した。Northvoltはドイツ政府から工場計画に対し1億ユーロの助成金を取り付けていたが、電力価格高騰が続けば経済性の面で実現が難しく、米国拠点拡大に注力する可能性も示唆したようである。最終的にはドイツ政府と建設地であるシュレースヴィヒホルシュタイン州が合わせて9億ユーロの助成供与(助成金7億ユーロと保証2億超)を約束し、危機は乗り越えられた。

交通分野の排出ニュートラルのために活動する欧州のNGOの統括組織Transport & Environment(T&E)によると、欧州のEVバッテリーの現地調達率は2022年時点で約5割に達したが、プロジェクト計画の進捗により2027年には需要を100%満たす可能性があり、Northvolt、Freyr、ACC、CATL、Volkswagen Groupがメインプレイヤーとなると予想している[5]。その一方で、プロジェクトの生産能力ベースで見ると2030年までに実現が確実なのは47%で、残り53%は規模縮小、あるいは遅延、中止のリスクがあると見られる[6]。欧州が米国や中国との市場競争に対抗できる持続可能なEVバッテリーサプライチェーンを構築するため、EUと各国政府の明確かつ迅速な支援策を求める声は一段と高まっている。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。

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[1] Northvolt 2024年3月日付プレスリリース https://northvolt.com/articles/start-of-construction-at-northvolt-drei/
[2] Teslaのバッテリー事業開発に関わったPeter Carlsson氏(CEO)とPaolo Cerutti氏(COO)が同社を辞め、2016年に共同設立した。
[3] VW Newsroom Salzgitter Werk https://www.volkswagen-newsroom.com/de/volkswagen-ag-werk-salzgitter-6592
2022年7月7日付プレスリリース https://www.volkswagen-group.com/en/press-releases/ground-breaking-in-salzgitter-volkswagen-enters-global-battery-business-with-powerco-16899
[4] ACC ウェブサイト https://www.acc-emotion.com/about-acc
[5] Transport and Environment 2024年1月ニュース https://evmarketsreports.com/europes-battery-supply-to-ramp-up-by-2030/
[6] Transport and Environment 2024年5月13日付プレスリリースhttps://www.transportenvironment.org/articles/european-made-batteries-could-be-60-less-carbon-intensive-than-chinese-analysis

宮本弘美(LRIコンサルタント フランクフルト)
関連サイト
LRI ニュースレター エネルギー&カーボン
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