欧州で最もパワフルなEV(電気自動車)チャージング・ハブが、2022年7月にオックスフォード市Cowley のRedbridge パーク・アンド・ライドにオープンした[1]。このチャージングハブは、仏エネルギー大手EDFグループ傘下のPivotPower(英)が英国全土に開発を計画している「Energy Superhub全国ネットワーク[2]」のオックスフォード・プロジェクト(スーパーハブ・オックスフォード)の一部である。同チャージングハブはオックスフォード市、Fastned社(独)[3]、Tesla社(米)、及びWenea社(西)[4]の協働によって実現した。最先端かつ最大級のハイブリッドバッテリーと、送電グリッドに直接接続したEV充電インフラにより道路輸送における脱炭素化を後押しする。
チャージングハブの概要は以下の通りである。
- 超高速充電器を含む42基のEVチャージャー:現在、充電ステーションに設置されているチャージャーの内訳は、出力300kWのFastned社製チャージャーが10基、7~22kWのWenea社製が20基、そして250kWのTesla製が12基である。Fastned社製チャージャーは、わずか20分で航続距離約483km分の充電を行うことができる。同社の充電ベイには(駐車場)屋根型PVが設置されている。Wenea社のEVチャージャーの設置作業は、Oxford市の完全子会社であるODSによって実施された。
- 10 MWの容量:10MW容量の充電設備を設置できるように設計されている。これは400台[5]のEVが同時に充電可能な容量で、2040年までに英国の道路で予想される約3,600万台の充電需要を満たす一助となる。電力は全て再生可能エネルギーでまかなわれる。
- 高圧送電グリッドに直接接続:約6.4kmのケーブルを介してナショナルグリッド[6]の高圧送電グリッドに直接接続することで、10MW容量を可能にした。送電グリッドに直接接続するので、地域の電力ネットワークに負担をかけたり、費用のかかるアップグレードを必要としない。
- 最先端かつ最大級のハイブリッドバッテリー:PivotPower社が開発した、Wartsila社製リチウムイオンバッテリー(50MW / 50MWh)とInvinityEnergySystems[7]社製バナジウムフローバッテリー(2MW/5MWh)を組み合わせたハイブリッドバッテリーシステムを利用する。
最先端かつ世界最大のハイブリッドバッテリーシステム
スーパーハブでは、PivotPower社のハイブリッドバッテリーシステムにより、EVチャージングの電力を全て、出力変動の激しい再生可能エネルギーでまかないつつも、安定した電力の供給を可能にしている。高出力な充放電が可能なリチウムイオンバッテリーと、サイクル寿命が長く劣化の少ないバナジウムフローバッテリーを組み合わせることにより、より多くの再生可能エネルギー電力をコスト効率よく統合し、バッテリーシステムの回復力と持続性を高めることができるようにしている。
そのバッテリーシステムを制御・管理するのは、 Wartsila社のGEMSデジタルエネルギープラットフォームである。GEMSプラットフォームは、個々の再生可能エネルギーのリソースと、エネルギー貯蔵量等を、機械学習、履歴およびリアルタイムのデータ分析を使用して監視、制御するクラウドホスト型製品である。
加えて、HabitatEnergy社のAI(人工知能)を用いたPowerIQプラットフォームが、最終消費者の価値を最大化すると同時に送電グリッドにも便益を提供するよう、EV充電を管理・最適化する。具体的には、卸電力市場において前日市場、当日市場、およびバランシングメカニズムの電力取引を自動的に最適化し、得られる便益を最大化するとともに、Dynamic Containment(動的封じ込め)[9]などのアンシラリーサービスをNational Gridに提供する。同プラットフォームはオックスフォードに拠点を置くHabitatEnergy社のチームが管理する。
今後、英国がネットゼロを達成し、クリーンで安定した、手頃な価格の電力システムを構築するには、強靭なバッテリーシステムが不可欠である。National Gridによると、2050年までに、英国は現在の1GWから25GWを超えるバッテリーストレージを必要とする可能性がある。PivotPower社は、地方自治体などの地域のコミュニティーとパートナーシップで、今後、英国全土に戦略的に、同様のバッテリーシステムをNationalGridの変電所や、幹線道路網、都市、街に近接する40か所に建設する計画で、2035年までに英国が必要とするエネルギー貯蔵量のほぼ10%を提供するとみられている。
オックスフォード市は、Pivot Power社が展開するエネルギー・スーパーハブの旗艦都市として、UKRI (政府から独立した英国の公的研究・イノベーション推進機関)の資金援助を受けている。同市は2021年7月に、2030年までにエミッションを40%削減し、同市の2040年ネットゼロ目標を達成するための計画を打ち出した。ハイブリッドバッテリーに接続された電力ネットワークは、今後、同都市全体に拡大され、公共及び民間部門のEV化(バス、タクシー、ゴミ収拾車、道路清掃車等)を加速させる。オックスフォードのエネルギースーパーハブ・プロジェクトにはヒートポンプの導入拡大も含まれており、電力・輸送・熱部門の脱炭素を統合的に、官民パートナーシップにより進め、年間1万トンのCO2を削減していく計画である。
※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。
[1] https://energysuperhuboxford.org/europes-most-powerful-ev-charging-hub-energy-superhub-oxford/
[2] 地方自治体などの地域のコミュニティーとパートナーシップで、英国全土で最大40のエネルギースーパーハブを展開するPivotPowerのプロジェクト。オックスフォードに続き、現在コベントリーとサンドウェルで次の開発が進められている。参考:https://www.pivot-power.co.uk/what-we-do/
[3] ドイツの高速EV充電サービス企業で、欧州に100か所以上のEV充電ステーションを展開する。https://fastnedcharging.com/en
[4] 欧州最大のEV充電サービスプロバイダーの1つ。https://wenea.com/uk/
[5] 350台が7kWで充電し、50台が150kWで充電すると仮定。
https://energysuperhuboxford.org/europes-most-powerful-ev-charging-hub-energy-superhub-oxford/
[6] 英国の送電事業者、National Grid。
[7] 2020年に、主要フローバッテリー社であったredT energyとAvalon Batteryの合併により設立。
[8] 2020年10月からスタートした市場。既存の周波数調整サービスに比べて反応速度の早いアンシラリーサービスを提供する。英国の系統バッテリー事業の主要な収益源になっている。
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