韓国の代表的なインフラファンド Macquarie Korea Infrastructure Fund(MKIF)は、PPI法(The Act on Private Participation in Infrastructure)で定義されている韓国のインフラプロジェクトを建設・運営・維持管理する事業会社に、エクイティ(出資)とデット(劣後債、シニアローン)を通じて、投資している。12本の高速道路と港湾施設、LRT(Light Rail Transit)のコンセッション事業に対する総投資額は、1兆8111億KRW(1800億円)に上る(図表1)。
図表1 MKIFの投資ポートフォリオ
最低収入保証制度は2009年に廃止
韓国の有料道路コンセッション事業では、1999年に設けられた「独立採算型BTO事業における最低収入保証(Minimum Revenue Guarantee=MRG)制度」が特徴だった。しかし、多額の損失補填が必要となったため、政府は対象とする事業、期間、費用を制限するなどの改正を進めたものの、2009年に同制度は廃止に至った。民間事業者にとってリスク軽減策がなくなったことでPPP事業は激減。2015年になって「民間投資活性化方策」として、BTO-rs(リスク分担型)およびBTO-a(損益共有型)が導入されたが、2017年の政権交代によって、高速道路は政府直営とする方針転換があった。韓国の高速道路整備は曲がり角を迎えている(図表2、図表3)。
図表2 MKIFが投資する事業のコンセッション期間とMRG制度の内容
図表3 最低収入保証(MRG)制度の概念図
通行料の値下げとコンセッション期間の15年延長
MKIF が投資する高速道路では、政府の方針転換に伴ってリストラも実施されている。同ファンドが15.83%株主で、株式6億KRW、劣後ローン1618 億KRW、合計1624 億KRWを投資しているSeoul-Chuncheon Highway(SCH、ソウル-春川高速道路) は、ソウル東部と春川を京畿道経由で結ぶ全長61.4kmの片側2車線から3車線の有料高速道路(図表4)。2004年8月に着工し、2009年7月に完成した。SCHでは2020年12月に、通行料金値下げを伴う事業スキームのリストラが以下の内容で実施された。
- SCHの全区間の通行料を28%減額 (2020 年12月24日から小型車の通行料を1台あたり5700KRWから 4100KRWに値下げ)。
- 新しい貸し手はSCH に対して、1兆700億KRWを限度に新しい融資枠から四半期ごとに資金提供することで、当初コンセッション期間の残余期間における通行料値下げに起因する通行料収入の損失を完全に補償(収入補償)する。四半期ごとの資金には収益補償、新しい融資枠に関連する支払い利息、資金調達コスト、リストラに関連するその他の費用を含む。通行料値下げによる交通量増加の影響は、交通量/料金弾力性に基づいて算定し、収入補償の対象外とする。
- コンセッション期間を2039年8月から54年8 月まで 15年延長する(図表5)。MKIFは、当初コンセッション期間の終了時にSCHへの投資を終了する予定。これは、コスト補償スキームによって、コンセッション延長期間中に予想されるリターンがMKIFの目標レベルと一致しないためである。(実際の収入-修正コンセッション契約で指定された費用項目の)結果として生じる金額がマイナスの場合、所管官庁は不足分の費用を補償する。プラスの場合は、所管官庁は超過分を回収する。
- 当初コンセッション期間中のMKIFのSCHへの投資額と条件に変更はない。
上記のリストラを受けて、2021年第1四半期のSCHの交通量は前年同期比1.5%増だったものの、収入は通行料値下げの影響で、同15.1%減(政府保証の支払いは除く)となった。通行料値下げに起因する料金収入の損失は、新しい貸し手によって提供される融資枠からの四半期ごとの資金によって補填される。
事業スキーム変更後、MKIFは事業参画期間を延長することなく、当初コンセッション期間までの投資終了を表明している。SCHのほか、仁川国際空港高速道路や仁川大橋の2021年第1四半期の交通量も、COVID-19による空港利用者数の低迷の影響で前年同期比で約20%減となっている。MRG制度のようなリスク軽減スキームがないことで、投融資提供者の事業選別の目は厳しくなる。
図表4 ソウル-春川高速道路の概略図
図表5 投資回収スキームのリストラの概要図