ドイツのH2 Ready発電新設にEUがゴーサイン

2031年までの稼働開始で合計10GWを今年入札

ドイツの前政権(社会民主党SPD、緑の党/90年連合、自由民主党FDPの連立)は排出削減を加速させるため、再生可能エネルギー推進政策に意欲的に取り組んだが、経済的な側面を配慮せず企業や国民に大きな負担を強いているという批判の声にもさらされた。昨年5月に発足した保守党のキリスト教民主同盟CDU/CSUが主導するSPDとの新連立政権がエネルギー施策の修正路線で不透明感を残す中、年初、エネルギー業界に朗報が飛び込んだ。水素火力発電の推進を盛り込んだ新パワープラント戦略についてEUと基本合意を得たのである。ただし、欧州委員会が数十億ユーロ規模と見られる関連助成金を許可し、入札を実施する前提として、関連法の成立を急がなければならない。エネルギー・水事業者連盟(BDEW)は、「新プラントを系統連結し給電を開始するまで約5年かかるため、もう一刻も猶予はできない」 と声を上げる。昨年末にTrading Hub Europe GmbH (THE)が水素輸送網運営事業者に選ばれており、H2 Ready発電施設の入札が実現すれば、ドイツの水素産業の構築に待望のエンジンがかかるであろう。
ドイツは2045年の排出ゼロ発電を実現するため、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの推進を主軸とするエネルギー戦略を進めてきた。だが、太陽光・風力発電には気象状況の影響で発電量が変動し安定した電力供給を脅かすという大きな弱点がある。原子力発電を廃止したドイツでは、火力発電が調整電力の供給源として系統電力の安定化を担っているが、遅くとも2038年に石炭火力発電から完全撤退した後はガス火力発電にこの役割が委ねられる。前政権の新パワープラント戦略構想の目玉は、排出ゼロ発電と電力供給安定化を同時に実現できる水素対応(H2 Ready)ガス発電プラントの推進で、2035年までに100%水素発電プラントとH2-ready発電プラントを合計23.8GW整備するため、まず2024-26年までに10GWの入札実施を描いていた。
調整電力供給のための新発電施設の入札
EUの基本了解を得た新パワープラント戦略には、調整電力を供給できる新設発電施設の段階的な入札案が示されている。第一段階として今年、発電容量10GWは系統安定のため長期的に電力供給が可能な発電施設でH2 Ready、2GWは技術不問で総発電容量12GWを入札する。いずれも2031年までに稼働開始する施設が対象で、2045年までに100 %排出ゼロを実現しなければならない。さらに2027年と2029‐30年にも、2031年までの稼働開始予定の施設(改造を含む)入札を行う。水素への移行を加速させるため、2027年からは水素への早期切り替えに伴う燃料コスト増を軽減するための差金決済契約などの入札も検討している。
国内のH2 ready発電プロジェクトの動向
ドイツ南西部のエネルギー大手EnBWは、昨年4月、Stuttgart/Münsterの同社発電所で国内初の水素対応(H2 ready)発電システムの試験運転を開始した。同拠点では主にごみ焼却による電熱併給(CHP)システムを採用し、地域暖房需要が高まる冬季にはさらに3つの石炭ボイラーで熱需要を補っているが、この役割をH2 ready発電システム(発電容量124 MW、熱供給容量370 MW)が担う。2035年に100%水素への切り替えを予定している。また、同様の水素移行プロジェクトをAltbach/Deizisau(発電容量675MW)とHeilbronn(同665MW)の火力発電拠点でも進めている。3拠点の投資額は合わせて約16億ユーロで、CHP法の下で投資助成を受けている。EnBW は他の拠点でもH2 readyプロジェクトを検討し、政策上の条件が魅力的であれば入札に参加する意向である。
ルール地方を本拠地とするエネルギー大手RWEは、元火力発電の拠点であったWeisweilerに2030年までにH2 Readyガスタービン発電所(発電容量800MW)の設置を計画している。またWerneでも同規模のH2 Ready発電を計画している 。政策環境が整えば、両計画への最終的な投資決定を行うとしており、今年の入札条がカギを握る。
水素市場の構築の遅れと水素推進政策の不透明感から、昨年は投資を中止した企業もあった。ドイツ東部の電力大手LEAGは、1990年代に閉鎖された発電所跡地でグリーン水素生産から水素発電、蓄電に至る水素ハブプロジェクトH2UB (Hydrogen Unit and Battery) Boxbergの中で、第一段階としてH2発電容量を10MWとし、その後の500MWまで増強する計画を示した 。だが地元メディアによると、前述の理由で中止を決めたようである。 水素燃料による電熱併給(CHP)発電プロジェクトを立ち上げたドイツ東部の電力会社Leipzig Südは、ガスタービン(電気出力62.5MW)2基を使い2026年から水素混合ガスでの稼働に向け試験運転の開始を計画していたが、公的助成を受けられなかったことやグリーン水素の価格見通しから無期延期を決めた 。EUのゴーサインで水素発電入札への道筋ができたことから、これらのプロジェクトが息を吹き返す可能性は大きい。

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy & Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。

[1] BDEW 2026年1月16日付プレスリリース https://www.bdew.de/presse/eckpunkte-kraftwerksstrategie-versorgungssicherheit/
[2]  連邦経済省2026年1月15日付プレスリリースhttps://www.bundeswirtschaftsministerium.de/Redaktion/DE/Pressemitteilungen/2026/01/20260115-grundsatzeinigung-mit-europaeischen-kommission-ueber-eckpunkte-der-kraftwerksstrategie.html
[3] EnBW 2025年4月11日付プレスリリース https://www.enbw.com/presse/enbw-wasserstofffaehiges-gasturbinen-kraftwerk-stuttgart.html
[4] EnBW発電ポートフォリオ開発責任者Andreas Pick氏インタビュー(2025年9月1日Erneuerbare Energien Hamburg掲載)https://www.erneuerbare-energien-hamburg.de/de/blog/details/h%E2%82%82-ready-kraftwerke-mit-zukunft.html
[5] RWE 2024年5月29日付プレスリリース https://www.rwe.com/presse/rwe-generation/2024-05-29-rwe-plant-wasserstofffaehiges-gaskraftwerk-in-werne/
[6] LEAG 2024年4月11日付プレスリリース https://www.leag.de/de/news/details/leag-baut-gruenes-wasserstoff-und-stromspeicherzentrum-in-boxberg/
[7] MDR放送局 2025年6月20日付記事 https://www.mdr.de/nachrichten/sachsen/bautzen/goerlitz-weisswasser-zittau/leag-wasserstoff-kraftwerk-boxberg-ampel-100.html
[8] BHKW Infozentrum 2025年8月27日付記事 https://www.bhkw-infozentrum.de/bhkw-news/59370_Wasserstoff-Projekte-werden-reihenweise-abgesagt.html
宮本弘美(LRIコンサルタント フランクフルト)
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