Levidian社は、英国のケンブリッジを拠点とするスタートアップである。同社は温室効果の高いメタンを分解して高品質なグラフェン[1]と水素を生産する「LOOPシステム」という技術を開発し、メタン排出量の多い産業への提供を進めている[2]。
LOOPシステム
LOOPシステムではメタンガスを取り込み、マイクロ波エネルギーを用いてメタンをプラズマ状態に変化させる。同システムの心臓部には特許取得済みのノズルがあり、これでメタン分子にマイクロ波エネルギーを集中照射することで、分子を水素と炭素に分解する。このプロセスはメタン分解と呼ばれ、低温・低圧で動作し、水や触媒を必要とせずに、そして二酸化炭素を発生せずに水素を取り出せるのが特徴である。分解された炭素は高純度のグラフェンとして回収・固定化され、バッテリーやコンクリートなどの強化添加剤として利用することができる。水素はクリーン水素として燃料や原料として活用できる[3]。LOOPシステムはモジュール式のユニット型設備で、既存のインフラに組み込みやすい設計になっている。そのため、小規模な実証実験から大規模な産業導入まで、用途や規模に応じて複数のモデルが展開されている。例えば、小規模なパイロットプラントで1時間あたり約1.5立方メートルのメタンを処理できるLOOP10はすでに実用化されている。一方で、産業向けの大規模モデルであるLOOP1000は現在開発・試験段階にあり、今後の商用展開が予定されている[4]。
活用例1、農業利用
英国南西のGlastonbury Festival(大規模野外音楽フェスティバル)の開催地であるWorthy Farmでは、クリーン水素開発企業Hexlaとの連携の下、大規模な産業向けモデルであるLOOP1000の導入が進められている。農場内では牛の糞尿や農業廃棄物を利用した嫌気性消化プラントが稼働しており、バイオメタンが生成されている。LOOPを導入することでそのバイオメタンから水素とグラフェンを生成することが可能になる。生成される水素は「カーボンネガティブ水素」として、既存の熱電併給プラントの燃料の一部として利用される。生成されたグラフェンはバッテリー、コンクリート、プラスチックの性能向上に活用できる。これにより年間最大25トンのCO2排出削減が見込まれている。HexlaはLevidianと提携契約を結び、LOOP1000ユニットの開発資金を提供している。更に両者は、同ユニット最大300台をグローバル展開する計画を進めている[5]。
活用例2、水処理インフラにおける利用
英国の上下水道サービス事業者であるUnited UtilitiesはLevidianと協力して水処理施設で発生するバイオガスを効率的に活用し、脱炭素化を目指すプロジェクトを実施している。このプロジェクトには、エネルギー安全保障・ネットゼロ省(旧ビジネス・エネルギー・産業戦略省)が、Net Zero Innovation Portfolio[6]を通じて、21万2,000ポンドの資金を提供している。第1段階では、ケンブリッジのLevidian技術センターに設置された小規模LOOPシステムを用いて、様々なバイオガスの特性を評価し、水素生産の最適化を進める。第2段階では、分離された水素リッチガスをより高純度にするための水素分離機能を統合したLOOP100を、United Utilitiesの施設に導入して大規模な現地試験を行う予定である。
※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。
[1] 炭素原子が六角形の格子状に並んだ単原子層の物質で、高い強度と導電性を持つ。
[2] https://www.cbsnews.com/news/methane-turned-into-hydrogen-and-graphene-uk-firm-levidian-climate-change/
[3] https://www.levidian.com/loop
[4] https://www.energyvoice.com/oilandgas/middle-east/411701/uae-levidian-hydrogen-flaring/
[5] https://www.levidian.com/recent-press2/hexla-and-levidian-bring-pioneering-climate-technology-to-worthy-farm
[6] グリーン産業革命を推進するための政府基金。