ドイツでは暖房などの熱利用が最終エネルギー消費量の5割以上を占め、その約8割が化石燃料に由来するため、排出削減の大きな課題のひとつである。国内約4,100万所帯のほぼ50%が天然ガスを燃料とするボイラー暖房を使い、灯油によるボイラー暖房も約25%を占める。熱水を配管で供給する地域暖房のシェアは14%で、燃料の8割は化石燃料である[1]。連邦統計局によると、家庭の暖房による排出量は2021年には20年前に比べ12%低減した。天然ガスの比率が大幅に拡大し、地域暖房の利用拡大や暖房の電化が増えてきたことに加え、熱消費量が13%減少したためである[2]。だが、2045年に排出ニュートラルを実現するには、排出削減スピードを急加速させる必要がある。
コミュニティレベルで排出ニュートラル実現に向けた熱供給計画を策定
2024年に発効した熱供給計画及び熱供給ネットワーク脱炭素化法(Gesetz für die Wärmeplanung und zur Dekarbonisierung der Wärmenetze)は[3]、国内全域でコミュニティが主導し熱供給分野の排出削減に取り組むための基盤となる。熱供給計画は住民、企業、エネルギー事業者に、コミュニティ内の地域暖房網を柱とした熱供給ソリューションを総括的に提示するもので、人口10万人以上の行政区(市・郡)は2026年6月末までに、10万人未満の行政区は2028年6月末までに地元コミュニティの排出ニュートラル実現に向けた計画書を策定することが義務付けられている。コミュニティによる計画書の策定と実施は州政府が管理する。熱供給計画法は2030年までに国全体でネットワーク型熱供給の熱生産量の5割を排出ニュートラルにするという目標を掲げる。地域暖房は産業廃熱やヒートポンプによる自然熱源(空気、地中熱、河川など)を利用でき、都市部では特に熱供給効率が良く、また段階的に容易に再エネへの転換が可能なため、連邦政府は、排出削減において重要な役割を果たすと見ている。再生可能エネルギー[4]の利用拡大と都市部を中心とした供給網拡充に注力し、熱供給網で供給する熱の再エネ・産業排熱利用率を2030年までに最低30%、2040年までに最低80%に高め、2045年の100%を目指す。一方、2024年に発効した新建物エネルギー法(Gebäudeenergiegesetz)は、新開地の新築住宅に導入する暖房システムに再エネ利用比率が最低65%であることを義務付けている。地域暖房網の新設区間についても同様の再エネ比率が適用される。既存住宅地での新築、古い暖房システムや他のシステムへの切替えの場合は居住地のコミュニティ熱供給計画の採択時期と連動し、遅くとも2028年半ばから同義務が発生する。
コミュニティ熱供給計画書に含まれるべき主な項目には、熱供給計画法に掲げられた排出削減目標の達成シナリオ、地区内を熱供給ソリューションの観点から区画化したマップ、地域暖房あるいは将来は水素ガス等のネットワークサービスの利用が可能か、ヒートポンプ等の分散型暖房システムの方が適しているか、再エネや産業排熱の利用方法などを含めた最適な暖房ソリューションの提案、などがある。
2割のコミュニティが熱供給計画に着手-地域暖房拡充が焦点
国内約1万1,000の行政地区の約2割がすでにコミュニティ熱供給計画書を実施している。
Baden Württemberg州のマンハイム[5]では全所帯の約65%が地域暖房を利用している。2024年3月に採択された熱供給計画は、2040年までに熱消費量を2020年比で5割以上削減し、地域暖房網を拡充することで排出ニュートラルを実現できると見る。地域暖房のエネルギー源としてヒートポンプによる河川水利用や深層地熱利用も検証している。2035年のカーボンニュートラルを目指す州都シュトゥットガルトは市内を23の熱供給地区に分けた熱供給計画を採択した。再エネで熱需要を賄うには暖房効率を高め消費量を抑える必要があり、建物の断熱効率向上や古い暖房装置の交換を重視している。
Bayern州都のミュンヘンが2024年5月に採択した熱供給計画[6]は、地域暖房網の拡大および最適化に重点を置くが、地域暖房を利用できないがヒートポンプや地熱利用が可能な地区にも焦点を充てる。地域暖房を再エネベースにし、改装によるエネルギー効率向上を重要課題とする。2045年の熱供給は地域暖房が約62%、ヒートポンプが約33%を占めると推定している。
首都ベルリンは2024年末、熱供給計画の第1段階として地域暖房網や将来の水素送管網の整備には適さないため分散型ソリューションが必要な地区を確認した。当該地区の建物棟数は市内全体の約3分の1を占めるが、1~2所帯住宅が多いため熱需要は全体の約6%である。ヒートポンプが適しているが、地中熱利用の可否も示している。
再エネ・廃熱利用による地域暖房と分散型のヒートポンプ暖房が排出ニュートラルのカギをとなることが見えてきた半面、現在主流のガス暖房の未来はかなり険しそうである。天然ガスに代わるべきグリーン水素は産業分野に優先的に投入され、暖房用燃料として適正価格で普及するには相当な時間がかかると見られる。Mannheimのエネルギー事業会社MVVは2035年までに家庭・事業者向け低圧ガス事業から撤退する方針を明らかにした。水素への転換はコスト等の点で実現不可能として、2027年からガス送管網を徐々に閉鎖する[7]。
※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。
[1] 連邦居住・都市建設・建築省(BMWSB)HP Kommunale Wärmeplanung https://www.bmwsb.bund.de/Webs/BMWSB/DE/themen/stadt-wohnen/WPG/WPG-node.html
[2] 連邦統計局2024年1月30日付プレスリリース https://www.destatis.de/DE/Presse/Pressemitteilungen/Zahl-der-Woche/2024/PD24_05_p002.html.
[3] 連邦政府HP 2024年1月11日付プレスリリース https://www.bundesregierung.de/breg-de/aktuelles/waermeplanungsgesetz-2213692
[4] 熱供給計画法では地熱、空気熱、河川熱、太陽熱、バイオマス、グリーンメタンガスおよび水素ガス、再エネ電力(系統・分散型)などを指す。
[5] Mannheim HP Wärmeplanung https://www.mannheim.de/de/service-bieten/mannheim-auf-klimakurs/waermeplanung
[6] Der Münchner Wärmeplan https://stadt.muenchen.de/infos/waermewende-muenchen.html
[7] MVV HP Informationen zum Rückzug aus dem Gasnetz https://www.mvv.de/informationen-zum-rueckzug-aus-dem-gasnetz