英国 National Energy System Operatorの誕生

LRI Energy & Carbon Newsletterから

英国では10月1日付でNational Energy System Operator(国家エネルギーシステムオペレーター) [1] 、略称NESOが誕生した。この組織は電力・ガスのトランスミッション会社、National Gridのグループ会社で電力送電システムの運用会社、National Grid ESOを政府が買収して、それをベースにつくられた公共機関である。

電力システムの運用をグリッドの所有権や電力の他の事業から分離・独立させることは長い間、世界的な動きとなっている。その結果できる組織はIndependent System Operator(ISO、独立システムオペレーター)と呼ばれる。そしてそれが公共機関である例もある。1999年に設立されたカナダのIndependent Electricity System Operator (IESO)がその一例である。

英国のNESOは公共機関としてのISOに留まらない。NESOはエネルギーに対してWhole system approachを取りながら、ネットゼロエミッションを達成するための推進機関でもある。 Whole system approachとは、電力・ガスのみならず、水素、フレキシビリティ、CCUSなどエネルギー及び脱炭素のコンポーネント全てを一括して計画するアプローチを意味する。そうすることによって、エネルギーのセキュリティ、手頃な価格を確保しながら、最低コストでネットゼロエミッションを達成しようとする試みである。イノベーションの国、そして良いと思えば積極的にやってみようというアングロサクソンの国、英国らしい。

NESO誕生の背景には電力システムの運用を民間企業に任せていたのでは、公約通りにネットゼロを達成することは困難であるという見方があった。電力グリッドはネットゼロエミッション達成のための重要な鍵である。その運用者は今日のグリッド使用者のみならず、様々な使用目的をもつ将来の使用者たちのコーディネーターでもある。情報をフルに公開し、様々な相談にのり、積極的に運用規定を変更しなければならない。そのような時に、目先の私的利益を優先させたのでは物事は前に進まない。

英国では2019年に洋上風力発電所と分散型電源が関与する大規模停電が起きた。この時にNational Grid ESOに過失があったわけではないが、積極的な行動を取らなかったことが問題となった。再エネ電源の比率が高まる中、電力システムの運用には不確実性が増している。AIを含む、デジタルテクノロジーの更なる導入が不可欠となっている。

NESOは現在、2000人余りのスタッフをもっており、この数は今後、増えていく。最後にガバナンス構造であるが、規制当局Ofgemからライセンスを得ているから同当局に規制されている。一方、政府、Ofgem、全産業の利害から運用上の独立性を保持している。運用費用は電気料金から出される。


[1] https://www.neso.energy/

津村照彦(LRI会長)
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