ドイツの送電システムオペレーターの統合計画

LRI Energy & Carbon Newsletterから

送電システムを誰が運営するかということは、ネットゼロエミッションを達成する上で、極めて需要である。というのは、送電システムオペレーター(TSO)が、様々な電力関連事業を行う現在そして将来のプレーヤーたちのコーディネーターの役割を担うからである。加えて、TSOは再エネ比率が増す中、積極的に電力グリッドに投資をし、エネルギー転換の主役を務めなければならない。

ドイツの送電システムは、ほぼ次の4つのTSOが運用している。

1.50Hertz:ベルリンを含めた東部をカバー。実質的な株主はドイツのElia Groupとドイツ開発銀行のKFW (Kreditanstalt für Wiederaufbau)で、それぞれ80%、20%所有。Elia GroupはベルギーのTSOであるEliaも所有。KfWは20%の株式が2018年に売りに出された時に、クリティカルインフラであると言う理由でドイツ連邦政府に代わって、一時的な所有者として購入(その時、中国の国営企業が興味を示していた)。

2.TenneT (Germany):中央部を北から南まで、最大の地域をカバー。TenneTはオランダのTSOで、2010年にE.ONから買収。ホールディングはオランダ財務省が所有。

3.Amprion:Dortmundを含む西部と南西部をカバー。ドイツの通称M31 (保険業界及び年金基金の機関投資家のコンソーシアム)とRWE AGがそれぞれ74.9%、25.1%保有。

4.TransnetBW:Stuttgartを含む南西部のBaden-Württemberg州の大半であるが、最小の地域をカバー。EnBWグループ会社。

所有者のうち、そのグループ内で発電・小売り事業を行っている企業はAmprionの少数株主(25.1%)であるRWE AGと4つのうち最も小さなTSO、TransnetBWを所有するEnBWのみである。

ドイツにおける送電アンバンドリング(構造分離)

2009年9月に施行されたEUの域内におけるガス・電力市場に関する立法の第3次パッケージが要求する電力に関するコアの要素は、TSOの発電・小売り事業からの所有権分離と独立した規制当局の設置である。ドイツは後者は満たしているが(ただし独立性が低い)、前者については、(実質的に)国内法で強制されてはいない。

ただし、TransnetBWは国内法に準じて、独立送電オペレーター(ITO)の選択肢を取っている。これによりEnBWグループ内に残ることを許されているが、データ処理、人事管理、ネットワーク保守など、以前から行っていた業務の禁止など、広範にわたる分離規制を実施している。加えて、TransnetBW を含め、TSO各社は、透明性を確保するためにグリッドデータはすべてオンラインで一般公開している。

しかしながら、欧州裁判所は、2021年9月にドイツが所有権分離の要件を正しく実施していないとの判決を下した。ドイツが実施していない理由の一つは、クリティカルインフラとしての送電システムが誰の手に落ちるかわからないリスクを回避するためであると想像されるが(上述したKFWの50Hertzの20%の株式の購入からもわかる)、所有権分離の実施は避けられなくなっている。

政府による4つのTSOの統合計画

2023年2月のBloombergニュース[1]は「ドイツ政府は、TSO 4社を統合することが今後の再エネ電力の増加のための送電システム近代化の最も早い方法だと考え、その取り組みを加速させている」と伝えている。この統合の過程で、所有権分離の実施も可能であろう。

政府による買収は統合の選択肢となっている。同ニュースによると交渉の進捗は次の通りであった。

  • オランダ政府と200億ユーロでTenneT Germanyの買収を協議中、2023年5月までに決着の見込み。
  • 50Hertz 、TransnetBW、Amprionとの交渉も進行中。TransnetBWの所有者のEnBWは49.9%の売却を提示(KfWがそのうちの24.95%のコールオプション保有)。

しかしながら、今年6月のReutersの報道[2]によると、ドイツ政府は財政上の理由でTenneT Germanyのディールを諦めたようである。ただし今後とも少数株の買収はありえる。政府による買収の範囲は予測できないが、4社の統合は何らかの形で行われる見込みである。

電力グリッドは今後とも長い間、巨額の投資を必要とする。それをいかに最小・適正化しながら、電力の脱炭素を進めていくかが重要なポイントとなる。そのためには今日のTSOの在り方は見直さなければならない。

英国のように送電システムの計画・オペレーション(リアルタイムでの運用)をその所有・保守から分離し、公的組織とする方法もある。今後、全国の送電システムを一つの公的組織が計画・運用する、英国モデルが世界標準となる可能性は高い。

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。


[1] “Germany in Talks to Merge Power Grids Through Buyouts”, Bloomberg News, Feb 28, 2023.
[2] https://www.reuters.com/business/energy/tennet-gives-up-sale-german-grid-operations-german-government-2024-06-20/

津村照彦(LRI会長)
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