英国のエネルギー会社、セントリカが今年の夏に、欧州企業のリーダー300人を対象に興味あるアンケート調査を実施している[1]。英国及びEUの企業は株主、顧客、環境団体等からの圧力に加えて、新たな規制のためにネットゼロ達成の戦略を強化することを強いられている。しかしながら、ネットゼロへの道筋は真っすぐで簡単なものではない。そのため企業のリーダーたちは実施すべきアクションの優先順位付けに苦労している。セントリカのアンケート調査では、企業のリーダーたちに、ネットゼロ追求の中で規制・コンプライアンス、コスト、テクノロジーに関するチャレンジをいかに克服しようとしているかを尋ねている。同調査の主なファインディングを以下、要約する。
ネットゼロ戦略で考慮する主なリスク(Very muchと答えた割合)
- スコープ1と2のレポーティング・コンプライアンス：68%
- 規制・コンプライアンスリスク：66%
- 炭素価格リスク：65%
- 新たなテクノロジーのリスク：60%
- グリーンウォッシュクレイムのリスク：60%
- 座礁資産のリスク：58%
- コモディティの価格リスク：58%
- サプライセキュリティリスク：58%
- 強制的なスコープ3エミッションのレポーティング：45%
上記より、規制・コンプライアンス及び炭素価格のリスク管理が最優先となっていることがわかる。英国・EUにおけるレポーティングの新たな規制そしてEUのカーボンクレジット価格が今年初めて100ユーロ/トンを超えたことが影響していると考えられる。
一方、強制的なスコープ3のエミッションのレポーティングを重大なリスク要因とみなす比率は比較的低い。
炭素価格リスク低減のために既に実施しているアクション
- 石炭から天然ガスあるいはバイオマスへの転換：29%
- クリーンエネルギーサプライ契約への変更：20%
- オンサイト再生可能エネルギー発電の設置：17%
- より一層のフレキシビリティ・ピーク負荷管理の実施：15%
- 商品・サービスの再設計：11%
- カーボンオフセットの購入：8％
- CO2のモニタリング・レポーティング：6％
- 水素ベースの燃料・テクノロジーの探求：2％
- 二酸化炭素回収のためにエネルギー会社と協業：2％
2，3年以内あるいは将来、実施する予定のアクション
- 商品・サービスの再設計：74%
- オンサイト再生可能エネルギー発電の設置：73%
- CO2のモニタリング・レポーティング：73％
- より一層のフレキシビリティ・ピーク負荷管理の実施：70%
- クリーンエネルギーサプライ契約への変更：68%
- 二酸化炭素回収のためにエネルギー会社と協業：68％
- 水素ベースの燃料・テクノロジーの探求：59％
- カーボンオフセットの購入：59％
- 石炭から天然ガスあるいはバイオマスへの転換：52%
上記より、アクションを取る必要があると認識しているものの実行に移していないという傾向が浮き彫りになっていると言える。石炭から天然ガス・バイオマスへの転換さえまだ実行に移されていない企業が多いことには驚く。
アンケート回答者の42%はCCUS (加えてCCUSを利用した水素製造) の開発に先行するオランダと英国であることが二酸化炭素回収(及び水素)への関心の高さに多少とも影響した可能性があると思われる。(回答者は他にハンガリー、イタリアとアイルランドである。業種は食品飲料製造が30%、ヘルスケア・医療20%、ホスピタリティ15%、重工13%、園芸10%、製薬7％、軽工業5％である。)
顧客、投資家、銀行を含むビジネスのステークホールダーからの圧力が増していることを感じるかという質問に対して36%がYes、30%がNeutral、34%がDisagreeと回答している。この圧力は年々増していくことに間違いはない。この増していく圧力が、規制の強化、炭素価格の上昇と合わせて、アクション実施のドライバーとなると言える。
※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。
[1] https://www.centricabusinesssolutions.com/knowledge-centre/reports-and-whitepapers/how-tackle-risks-path-net-zero