ローカルPFI、過去の失敗事業の検証で「VFM算出は無意味」の指摘も

「PPP/PFI推進アクションプラン(令和5年改定版)」(2023年6月)が、PPP/PFI手法の進化・多様化の一環として、地域社会・地域経済への貢献を目指す「ローカルPFI(広義のPPPを含む)」の推進を掲げ、財政負担軽減効果(Value For Money=VFM)に加えて、自治体・民間の創意工夫による「多様な効果」に焦点を当てることを打ち出したのは、既報の通りだ。

このローカルPFIについて、「地方創生型PFIによる地域への効果は、経済的成果のみならず行政部門の改革効果を含め大きなInvisible Effects があり、VFM算出にはほとんど意味がない」といった内容を指摘した報告書が2017年11月に発行されている。2002年に契約し、2017年11月に事業終了した、とがやま温泉PFI事業(現、兵庫県養父市)で、事業が失敗に終わった原因を検証した「とがやま温泉PFI事業検証委員会」による「とがやま温泉PFI事業検証報告」がそれだ。

同事業は、PFI法が制定された1999年から間もない初期の事業であり、PFI事業の蓄積や事業に対する理解度、事業支援体制が今日と比ぶべくもないが、事業の失敗にはローカルPFIへの多くの教訓が含まれている。ここで、事業検証報告等を基に、事業の経緯と検証結果をあらためて振り返ってみる(情報は2017~2018年当時)。

旧八鹿町(現、養父市)では、町所有の源泉を利用した温浴施設の建設が長年の悲願だった。しかし、温浴施設をつくるにはいくつかの課題があった。第一に、源泉がカルシウム、マグネシウム、ナトリウムなどの濃厚な成分を持つ泉質であり、マンガンの除去、スケール(湯の華)の処理問題が懸念された。第二に、源泉温度が低く、かつ湧出量が少ないという課題があり、対応措置としての追い焚きエネルギーやタンク貯蔵の経費算定も難しかった。第三に、温浴施設の立地場所が泉源近くの町有地に限定せざるを得ず、立ち寄り客にとっての利便性が高くなかった。更に、旧八鹿町は福祉の町を標榜しており、温浴施設に福祉機能を持たせることとし、福祉風呂といった公共的施設を備えることとした。

このような技術的、経営的に厳しい条件の中で、温浴施設の設計・建設・運営は地元企業では難しく、最終的に町は1999 年施行のPFI法によるPFI事業を選択した。PFI事業は制度として立ち上がったばかりであり、当時、地方ではほとんど適用事例がなく、地方の小規模事業に適用可能かどうか不確かな面もあったが、ほかに方法もなくPFIに頼ることを決断した。

事業者として、応募4 グループのうち、A社(滋賀県近江八幡市)とB社(兵庫県山東町、現・朝来市)による提案が選定され、両社が折半出資の特定目的会社(SPC)「とがやま温泉」を組成した。A社は本社が近江八幡市にあるが、当時、朝来にも事務所を持ち但馬地域の実情にも明るく、地元建設会社のB社と組んで事業に参画した。

温浴施設は2002年12月に開設した。事業は予想を上回る様々な難題に直面した。2017年11 月末に15 年の事業期間満了を迎え、12月からは地元企業による運営(指定管理者制度を適用)に引き継がれている。

事業期間中の難題や行政・民間企業双方の対応については、とがやま温泉PFI事業検証委員会が整理している。結果として、事業スキーム(BTO方式)への理解不足、契約における責任分担の曖昧さ、計画を下回る利用者数、近隣にできた他施設の影響、技術的な問題の相次ぐ噴出などによって、SPCは債務超過に陥った。2017 年3月末時点で、資本金8000万円に対し、繰越損失1億9400万円で資本勘定は1億1400万円の損失。これを長短借入金1億5000万円(出資2社が折半負担)で資金繰り。2018年3月に出資2社が債務を折半して清算・解散。市は、スケール対策費用(15 年間合計2442万円)の半分をSPCに支払っている。

一方、現在のコンセッション方式に繋がる利用料金収入を含むBTO方式に先鞭をつけた事業としての評価もある。そのうえで、同事業のような地方創生型PFI事業(PFILR:Local Revitalization PFI)にはどのようなスキームが必要か、事業検証委員会は以下の6点について検証している。

  • 民間事業者の選定:地域創生の意欲と能力を持つ民間事業者に恵まれることが最大のカギとなり、このような民間事業者の選定が極めて重要である。
  • PFILRに適した標準契約書:事業開始前に予測できない事態に対して、現行の一般的な規定型契約では対応が難しい面がある。また、契約通りに事業を行うと却って事業の創意工夫を狭めてしまう可能性がある。一例が、民間事業者がサービス水準を守れなかった場合のペナルティである。行政からの一方的な減点方式に立つ累積ポイント方式は、お互いの顔が見える小規模事業では機能しない。双方が協議して成果を分かち合えるスキームが必要である。
  • サービス対価の支払い方法:本件のように競合施設ができる、種々のトラブルが起こるなど、運営型事業で予測しがたい事象が生ずる恐れがある場合(採算性が運営開始後でないと分からない場合)、事前にこれらを含んだサービス対価の支払い額をセットしておくことは民間事業者に過度のリスク負担を強い、結果的に民間事業者のPFILRへの参加意欲を減退させることになり兼ねない。民間事業者の経営努力に対して、相応しい対価報酬を支払うスキームづくり、あるいは対価報酬額を最初から固定しない算出方式などの採用が必要である。選定事業者が最大の経営努力を行ってなお厳しい状態では、一定の中立的機関による検証を経てこれに応じた対価の支払いが可能なスキームを考えてもよい。
  • 契約期間:当初契約期間(本事業は15 年)は、本件のような運営型事業では短い。軌道に乗った段階で期間満了ということもあり得る。弾力的に事業期間を延長するとか、継続性を持った事業者の指名が可能な制度設計も必要である。例えば、一定期間の契約を締結して、数年毎にローリングする方式や、特定地域で将来の事業も特定の事業者に委ねる方式を考えることも必要である。
  • 地元企業への伝承:PFILRから地元企業に経営を移していく場合、技術・経営の伝承が必要であるが、本件のように従業員を全面移転させる場合、年金・退職金その他で不都合が生じないように制度整備を考える必要がある。
  • PFI事業を採用する基準、PFI事業の効果検証:特定事業選定の段階でVFM基準が一般に適用されているが、本件のように地域の力では事業化が難しく民間事業者の経営力、技術力に頼らざるを得ない場合にはVFM 計算の無意味さがある。ましてや、機械的なVFM 効果算出はほとんど意味がない。PFILRによる地域への効果は、経済的成果のみならず行政部門の改革効果を含め大きなInvisible Effects がある。本件で言えば、公共部門で行うことは不可能だったわけで、その意味ではVFM は改めて計算するまでもなく極めて大きい。PFILR にはそういう事業が多いのではないだろうか。

以上の検証のうち、「PFI事業を採用する基準、PFI事業の効果検証」の内容は、今回の「ローカルPFI」における、「VFM以外の非財務効果」の重要性に通じるものがある。

InfraBiz
関連記事
金利情勢を反映したVFMや非財務効果を考慮してPPP/PFIを総合評価
タイトルとURLをコピーしました