インフラ運営ビジネスの特質と事業会社に必要な機能・能力

インフラ投資ビジネスの一つの形態として、SPC(特別目的会社)によるインフラ運営がある。コンセッション(事業運営権)方式がその典型なビジネスモデルである。日本国内では、PFI法の改正によって2011年からコンセッション(公共施設等運営権)事業が可能になり、10年間で空港、上下水道、道路、文教施設、MICE施設など、40件超の実績を数えている。コンセッション型ビジネスの受託を目指す事業会社は、EPC(設計・調達・建設)を担う従来の請負型ビジネスからの転換が求められてきた。ここで、あらためて両モデルを比較し、コンセッション型ビジネスにおいて、戦略投資家(ストラテジックインベスター)としての事業会社に求められる機能や能力を整理する。

コンセッション型ビジネスは請負型ビジネスと異なって、出発点が、インフラに関わる社会の課題解決(民間の運営ノウハウを生かした事業効率化や利用者増・増収、公共人材の不足対応、地方創生など)を目的とする事業と重なる部分が多い。事業会社にとっては、短期間の請負サービスの提供にとどまらず、中長期にわたる事業全般(開発から計画・設計・施工・資金調達・運営・維持管理)のリスクと責任をマネジメントしながら、リソース(資金、人材)を最適に配分し、事業を中長期にわたって持続させるために、収益性重視の視点が欠かせなくなる(図表1)。

それに伴って、事業会社の組織・体制や人材に求められる機能や能力も変わる。具体的には、発注者の課題解決につながる事業創出力、事業構築のためのパートナー力(ネットワーク力)や資金調達力、複雑な事業実施のためのプロジェクトマネジメント力(リソース、リスク、コスト管理)、法令や契約に関する専門知識などが、請負型ビジネス以上に求められる(図表1)。

フランスの大手総合インフラサービス企業であるVINCI(関西国際空港、大阪国際空港、神戸空港のコンセッション事業に参画)は、「Contracting(請負)」と「Concession(コンセッション)」のビジネス上の特質を図表2のように比較している。ビジネスの専門性について、請負は技術的専門性、コンセッションはプロジェクト開発と運営上の専門性や法務・財務に関する専門知識・ノウハウ、利益の源泉について、請負はフリーキャッシュフロー、コンセッションはレバレッジを生かした資本の活用などと、それぞれの違いを整理している。

図表1■インフラ運営ビジネスの特徴

(出所)インフラビジネスパートナーズが作成

図表2■ビジネスモデル(請負型とコンセッション型)の比較

(出所)VINCIのウェブサイトを参考にインフラビジネスパートナーズが作成

 

グローバル企業と連携する前田建設工業

VINCIなどのコンセッション型ビジネスを研究し、“脱請負”を掲げてインフラ運営事業の開拓に取り組んできたのが前田建設工業である。建設会社の売上高ランキングでは10位前後だが、インフラ運営事業では先頭を走る。2021年10月には前田建設工業、前田道路、前田製作所の3社で持ち株会社のインフロニア・ホールディングスを設立し、インフラの企画提案から運営・維持管理までを担う「総合インフラサービス企業」を目指す。

これまでのコンセッション事業の実績は5件で首位。仙台空港、愛知県有料道路*、愛知県国際展示場、愛知県新体育館整備・運営*、大阪市工業用水道*と幅広い。このうち3件(上記の*)は代表企業として参画している。

インフラ運営では、グローバル企業とのパートナーシップも特徴的だ(図表3)。仙台空港や愛知県有料道路では、豪州のMacquarieグループがアドバイザーを務めた。愛知県国際展示場では、フランスの展示会運営企業のGL eventsを代表者に立てて運営権を獲得。愛知県新体育館では、米国最大のスポーツ・音楽エンターテインメント企業であるAEG子会社のAnschutz Sports Holdingsが構成員に加わっている。

図表3■前田建設グループのインフラ運営ビジネス戦略

(出所)前田建設工業

 

 

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InfraBiz
関連サイト
インフロニア・ホールディングスのウェブサイト
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