リビングラボ

サステナビリティへの挑戦:ケンブリッジ大学シリーズ(3の3) LRI Energy & Carbon Newsletterから

リビングラボ(Living Laboratory:LL)は、大学によって様々な定義が存在するが、オープンでかつユーザーと実生活に密着した実証実験の場を提供する、研究「室」にとらわれない、新しい研究室のスタイルであるという点は、多くの大学のリビングラボに共通している。こうした特徴から、リビングラボには、現実社会のニーズに応えた研究を生み出すことができるという強みがあるだけでなく、産業セクターとアカデミックセクターのスムーズな協働を可能にするメリットがあるとされる。

 

リビングラボは、もはや大学の専売特許ではない。近年、企業も、ユーザーのニーズに焦点を当てた商品開発や、多様なステークホルダーの協調を促す目的で、リビングラボを自社に持つようになっている[1]。こうした企業でのリビングラボは、実地で得られた貴重なアイデアやフィードバックを吸い上げ、新たなイノベーションを生み出すというサイクルがうまく回るように助けてくれる場、という位置付けになる。

 

ケンブリッジ大学のリビングラボは、サステナビリティに焦点を当てた研究の場を、学生やスタッフに提供している[2]。サステナビリティの問題は、個人の行動を含めた実社会での応用可能性が焦点となることや、産業との協働可能性などから、リビングラボがまさに最適な研究の場を提供してくれる。リビングラボの存在により、大学は学生に対して、自らの理論の応用として、サステナビリティを研究テーマに取り入れるよう促すことができる。学生は、リビングラボで自分の理論を応用することで、サステナビリティの向上に貢献できるだけでなく、そこでの実証実験により自らの理論を補強したり、理論をさらに修正したりすることが可能になる。

 

リビングラボの強みは、なんといっても、実際に人々がどう反応して行動するかという具体的なレベルまで、理論を試すことができる点にある。サステナブルな世界を目指す行動は、少なくとも今の段階では、法律によって強制まではできないというものがほとんどである。自転車通勤や、サステナブルな素材で作られた商品を買うことなどは、その例である。さらに、最近では、家畜の飼育は、飼料のルーツなどそのプロセスを全体的に見ると、CO2の排出量が多いという点を根拠に、ベジタリアンやヴィーガンという、食事の選択を通じた環境への貢献が、若い世代を中心に注目を集めている。そこで、「ナッジ(nudge)」といって、強制はしないが、複数の選択肢の中から特定の選択肢を選ぶよう促すという手法がどこまで使えるか、ということになる。ケンブリッジ大学のリビングラボで行われた研究の中には、カレッジのダイニングルームで、肉料理コースとそうでない料理の選択肢があるとき、どのような働きかけがどのように利用者の選択に影響を与えるかを調査したものがある。また、大学や大学付属マンションのエネルギー使用に関する調査や、大学の大規模カフェで、サステナブルな素材で作られた商品とそうでない通常の商品があった場合に、どのような要素が購入者の選択に影響を与えるか、といった研究もある[3]。こうした研究は、特別大きなコストがかかるわけではない一方で、大学で実際に生活するユーザーや実際に出店している企業を実験対象とすることができるため、大学や企業側は、研究からのフィードバックを即座に自らの戦略に生かすことができ、学生側はより大学や企業の目線にフォーカスした知見を研究に取り入れることができるため、お互いにメリットが大きい。

 

リビングラボのアイデア自体は、日本の企業でも簡単に導入できるように思える。必要なのは、高価な機材の揃った研究所ではなく、基本的に、人とアイデアである。ユーザー目線にフォーカスした、サステナブルな開発研究のヒントは、意外と社内に隠れているのかもしれない。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。

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[1] https://www.rndtoday.co.uk/latest-news/promoting-innovation-through-living-labs/
[2] https://www.environment.admin.cam.ac.uk/living-lab
[3] https://www.environment.admin.cam.ac.uk/getting-involved/living-laboratory-sustainability/projects

西貝 小名都
関連サイト
LRI ニュースレター エネルギー&カーボン
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