EUタクソノミー:概要解説および最新動向
LRI Energy & Carbon Newsletterから
EUでは、野心的な気候目標が設定され、持続可能な経済活動やプロジェクトへのさらなる投資が求められる一方で、何が持続可能な経済活動なのかが明確に定義されてこなかった。このため、EUは、2018年3月に発表した「サステナブル・ファイナンスに関するアクションプラン[1]」の一環として、EUタクソノミー(分類法)規則(2020年7月に発効)を定め、持続可能な経済活動に関する定義づけを行った。
EUタクソノミー(分類法)規則は、次の6つの環境目標を定めた上で、持続可能な経済活動としてみなされるための4つの要件を明示している。
【6つの環境目標】
(1)気候変動の緩和
(2)気候変動への適応
(3)水及び海洋資源の持続可能な利用と保護
(4)循環経済への移行
(5)汚染の防止と制御
(6)生物多様性とエコシステムの回復または保護
【持続可能な経済活動としてみなされるための4つの要件】
● 上記6つの環境目標のうち、少なくとも一つ以上の環境目標に実質的に貢献すること。
● 上記環境目標のうち、ある特定の目標への貢献が、他の目標を著しく害さないこと。
● OECDの多国籍企業行動指針、国連ビジネスと人権に関する指導原則、労働における基本的原則及び原理に関するILO宣言等の労働や人権に関する基本的原則に準拠することにより、「最低限の社会的セーフガード」を満たしていること。
● 上記6つの各環境目標に対して、欧州委員会が別途策定する「技術スクリーニング基準」に沿っていること。
最後の「技術スクリーニング基準」は、欧州委員会が、2021年及び2022年に策定する2つの委任規則(規則の中で欧州委員会に付与された権限に基づき、欧州委員会が技術的詳細を制定する際などに使用される二次法)の下で定められるもので、最初の委任規則では上記環境目標(1)と(2)が、そして2つ目の委任規則で残りの4つの環境目標がカバーされることとなった。
最初の委任規則[2]
最初の委任規則は今年6月に採択された。環境目標(1)については9セクター(88経済活動)、そして環境目標(2)については13セクター(95経済活動)と、幅広いセクターと詳細な経済活動が対象となっている。それぞれの対象セクターは以下の通りである。
環境目標(1)気候変動の緩和:林業、環境保護・修復活動、製造業、エネルギー、水供給・下水道・排水管理・浄水処理、運輸、建築・不動産業、情報コミュニケーション、プロフェッショナル・科学技術活動
環境目標(2)気候変動への適応:上記セクターに加え、金融保険サービス、教育、ヘルス・社会活動、アート・エンターテイメント・レクリエーション
具体的な環境目標(1)の技術スクリーニング基準の例を挙げると、例えば、運輸セクターの経済活動「モーターバイク、乗用車及び小型商用車による運輸」では、自動車(9人乗り以下及び最大重量が3.5トンを超えない)の調達やレンタルにおける自動車のCO2排出基準は、2025年末時点で50gCO2/㎞未満(低排出・ゼロ排出軽量車)、それ以降はゼロである。また、産業セクターの経済活動「電池製造」では、二次電池、バッテリーパック、蓄電池について、これらが様々な用途で大幅な温室効果ガスの排出削減をもたらし、使用後にはリサイクルされる場合に、気候変動の緩和に貢献するとみなされる。同様に、エネルギーセクターの経済活動「水素製造」においては、ライフサイクルでの温室効果ガス排出量が、化石燃料(94gCO2e/MJ)のそれと比べて73.4%以上の削減(つまり水素1トン当たりのCO2排出量が3トン)を達成することが基準となる。
尚、タクソノミーの策定を巡り、大きな議論となっていた天然ガス及び原子力の扱い(特に、天然ガスをサステナブルな経済活動とみなすか否か、原子力エネルギーの汚染廃棄物問題の扱いなど)に関しては、最初の委任規則の初期草案には含まれていたが、最終的な提案には盛り込まれず、今年中に別途提案がなされることとなった。
タクソノミーはどのように使用されるのか?
技術スクリーニング基準は強制力を持つものではない。そのため、当該セクターで経済活動を行う企業が規定要件(基準)を満たさなければならないというものではなく、企業や投資家によるサステナブル・プロジェクトへの投資決定の際の参考基準として任意で使用されることが想定されている。その一方で、タクソノミーへの参照を指示するEU政策や規則は増えている。例えば、2020年7月に欧州委員会が発表した「エネルギーシステム統合戦略」や「水素戦略」は、長期目標に沿った投資の方向付けにはタクソノミーを使用することとしている。つまり、任意基準ではあるものの、今後、広範なEU規制・政策において参照されていくことになれば、特に資金調達の面でEUで経済活動を行う企業に及ぼす影響は大きくなるであろう。
サステナブル・ファイナンス:EUから世界へ
EUはサステナブル・ファイナンス分野における世界標準の策定を目指している。2019年には、EU主導で、サステナブル・ファイナンスの世界的な推進を目指す「サステナブル・ファイナンス・国際プラットフォーム(IPSF)」[3]が設立された。現在では、日本を含む世界17か国が参加している。世界各国が次々と2050年気候中立目標を掲げ、2030年に向けた温室効果ガス排出削減へのコミットメントを強化し、その達成手段が模索される中、EUが国際的な場でこのような議論をリードしていけば、今後世界的にEU主導のサステナブル・ファイナンスのルール作りが進んでいく可能性は大きい。このような国際的な動きの観点からも、EUの今後の技術スクリーニング要件の策定は大いに注目される。
※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。
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[1] 欧州委員会サステイナブル・ファイナンスページ