2020年の米国道路P3事業レビュー

竣工や株主変更、出資比率変更の動き

2020年の米国道路P3(PPP)事業を振り返る。2019年末時点で運営・維持管理のフェーズに至っていなかったコンセッション事業の中で、2020年中に竣工・供用開始した事業は、Pennsylvania Rapid Bridge Replacementプロジェクト(ペンシルバニア州)とSH 288 Toll Lanes(テキサス州)だった。一方、I-77 Express Lanes(ノースカロライナ州)で株主出資比率の変更、I-635 LBJ Managed Lanes(テキサス州)でリファイナンス、Elizabeth River Crossings(バージニア州)で株主の変更が実施され、ワシントン大都市圏高速道路(I-495, 95, 395)(同州)では株主構成員の追加が合意された。

 

■米国道路P3事業の2020年以降の主な動き

運営・維持管理フェーズ前の事業の動きを整理。2020年の主な動きを朱書き、その他の黒字は建設中 (出所)米国FHWA(連邦道路庁)や関連企業のウェブサイト

 

ペンシルバニア州で558橋の架け替え完了

ペンシルバニア州では、DBFM(設計・建設・資金調達・維持管理)によるP3契約に基づく早期橋梁架け替え(RBR)プロジェクトで、全558橋(橋長40~70フィートの単純コンクリート桁)の一括架け替えが2020年8月に完了した。旧来のDBB(設計・入札・建設)の調達プロセスであれば8~12年掛かるところ、2015年の契約から約5年で架け替えが終わった。ただし、2020年8月20日付のThe Morning Callによると、工期は予定より約1年延び、設計・建設費は当初見込み(8億9900万ドル)を4300万ドル上回った。今後、2043年までの維持管理でコスト削減を図っていく。

受託者はPlenary Group(出資80%)とWalsh Investors(同20%)からなる「Plenary Walsh Keystone Partners」で、事業費は11億1800万ドル(設計・建設:8億9900万ドル)。着手時にモビリゼーション・ペイメントが1500万ドル、建設時のマイルストーン・ペイメントが2億1000万ドル(12カ月後から6カ月毎に42カ月目まで3500万ドルずつ)、支払われる。

全橋架け替え後の維持管理では、アベイラビリティ・ペイメントとして、年間固定費5565万ドルと物価指数変動費618万ドル(2014年10月を起点)の合計額6183万ドルが支払われる。ただし、これは最大値であり、維持管理項目に違反した場合(Noncompliance)は、項目ごとに設定された違反ポイントが加算され、1ポイントあたり2000ドルで換算された総額が毎月の最大アベイラビリティ・ペイメント(固定費と当初の物価指数変動費の合計額である年間6183万ドルを12カ月で割ると月額515万ドル)から減額される。また、橋梁に供用不能の事象が発生した場合(Unavailability)も同様に、う回や車線閉鎖をもたらす事象(Detour Unavailability Event、Lane Closure Unavailability Event)に対して減額幅が示されている。

 

テキサス州SH288が1年余り遅れて供用開始

SH 288 Toll Lanes(テキサス州)は、ヒューストンとメキシコ湾の間の61マイルの高速道路。急成長しているハリス郡とブラゾリア郡の住宅街を、ヒューストンのダウンタウンの主要な雇用センターやテキサスメディカルセンターと結ぶ。プロジェクトには4つの新しい有料道路の開発・設計・建設・資金調達・運営・維持管理(2068年まで)、および既存の有料道路の維持管理のほか、I-610インターチェンジの再構築、Beltway 8での直通接続ランプの追加、テキサスメディカルセンターへの直通接続ランプが含まれる。2016年に着工して2019年半ばに竣工予定だったが、建設工事の遅れやハリケーンの影響で度々延期され、2020年11月に供用開始した。

コンセッション会社「Blueridge Transportationグループ」は、ACS Infrastructure Development、InfraRed Capital Partners、Shikun & Binui Concessions、Northleaf Capital Partners、Clal Insurance Enterprises Holdingsグループ、Star America Infrastructure Partners、設計・建設JVは、Almeda-Genoa Constructors Dragados USA、Pulice Construction、Shikun & Binui Americaからなる。

事業費は10億6360万ドル。Private Activity Bonds (PABs) 2億9860 万ドル、TIFIAローン3億5700万ドル(通行料金によって返済)、民間出資3億7530万ドル、TxDOTファンド(テキサスメディカルセンターへの接続道路向け)1710万ドルなどを資金調達した。

 

ノースカロライナ州I-77のCintraの出資比率が65.1%に

2019年11月に供用開始したI-77 Express Lanes(ノースカロライナ州)のコンセッション会社「I-77 Mobility Partners」の構成員は、代表のCintra InfraestructurasとAberdeen Global Infrastructure Partners II、John Laing Groupからなる。事業費は6億3600万ドルで、資金構成は、民間出資2億4800万ドル、TIFIAローン1億8900万ドル、PABs(Private Activity Bonds)1億ドル、公的財源9500万ドルなどとなっている。2020年11月、Cintra Infraestructurasは、同社の出資比率を50.1%から65.1%に増加させることを既存株主と合意。評価額は、7770万ドルに加えて、2024年6月時点の資産のパフォーマンスに基づく270万ドルと見積もられる後払いの合計。取引は2020年末までに完了した。

I-635 LBJ Managed Lanes(テキサス州)では、コンセッション会社「LBJ Infrastructure Group」(Cintra Concesiones de Infraestructuras de Transporte、Meridiam Infrastructure Finance、Dallas Police and Fire Pension System、APG Investmentsで構成)は2020年9月、当初の名目額5億4450万ドルの債券を、最終的に6億2200万ドルを投じてリファイナンスした。資金は5億3750万ドルの非課税の民間活動債(PABs)と700万ドルの課税債で構成。2010年の免税債を完全に借り換えた。この取引によって、コンセッション会社は資金調達構造の効率を最大化する戦略を進めることができる。LBJ Expressは、料金可変の管理車線を有する13.3マイル(21.4 km)の道路で、投資額は25億7000万ドルを超える。ダラス大都市圏にあり、コンセッション期間は2061年まで。6つの有料車線を追加して、米国で最も混雑した道路の一つである旧LBJの輸送能力を拡大している。

 

バージニア州の道路で株主の変更や追加

バージニア州のElizabeth River Crossings(ERC)では、Abertis Infraestructuras(出資比率55.2%)とManulife Investment Management(同44.8%)が2020年12月、コンセッション会社「Macquarie Infrastructure Partners II+Skanska」から約10億ユーロでERCの100%株式を取得した。コンセッションの残存期間は2070年4月までだ。

同じくバージニア州のワシントン大都市圏高速道路(I-495、95、395)では、コンセッション会社のTransurbanが2020年12月、合算株式50%の持ち分取得について、AustralianSuper、Canada Pension Plan Investment Board(CPP Investments)、UniSuperと合意。21億ドルの取引は、2021年末までに完了の予定だ。残りのコンセッション期間67年に変わりはない。AustralianSuperとUniSuperは豪州の大手退職年金ファンドであり、Transurbanグループの最大出資者でもある。CPP Investmentsは、カナダ年金制度の拠出・受益者の資金を管理・投資する企業。3事業体はいずれもTransurbanが運営する豪州道路への共同出資団体だ。

 

■ワシントン大都市圏高速道路(I-495、95、395)の位置図

(注)Transurban は、I-95 Express Lanesと北側のI-395 Express Lanes、南側のFredericksburg Extension、さらにI-495 Express Lanesに参画している (出所)Transurbanのウェブサイト

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